子どもに指示を出したり、しつける方が「甘やかし」? 医師・臨床心理士「小言を言わず、優しくして大丈夫」を提案する理由

コノコト コノコト

不登校や引きこもりなど子どもの問題に悩む親たちとの面談を多数行っている医師で臨床心理士の田中茂樹さん(奈良在住)が、富山市内で講演しました。県内で活動する「Switch不登校の子どもと親の会」が、不登校ペアレントメンター(※)向けに開いた講座で、子どもとの接し方を具体的に提案しました。

※不登校の子どもの子育てを経験し、かつ相談支援に関するトレーニングを受けた親たちのこと。

「子どもを信じること」を育児の基本に

私はもともと脳科学の研究者で、病院では臨床医として主に心療内科的な診察を担当していました。その中でカウンセリングへと関心が広がり、臨床心理士の資格を取り、これまで子どもの問題で相談に来られるたくさんの親の面接や診療をしてきました。

プライベートでは、4人のやんちゃな男の子の父親で、週1回近所の子どもたち向けに遊びの場を設けるサークルのおっちゃんでもあります。私はこれらの医師、臨床心理士、父親、遊びのおっちゃんの経験から「本来子どもが持っている力を信じること」を育児の基本方針と考えるようになりました。その具体的な方法が「子どもに小言を言わず、優しく接する」ということです。

家でリラックスして過ごせることが大切

「子どもをしつけなくて大丈夫なのか」「本当に優しくしていいのか?」と言われることがありますが、私は「子どもを喜ばせることを無条件にやって大丈夫」と答えています。

「子どもが家でリラックスして過ごすこと」「子どもが自分を好きになること」「親も子どもと過ごす時間を楽しむこと」は、子どもが生きることを好きになるためにとても大切なことです。この「生きることが好き」という気持ちは、将来、不確実な未来を生きていく子どもの力になります。

指示はせず、関心持って見守るのが「愛情」

親はつい、子どもの現状を受け入れられず、あれこれ指示を出してしまいます。私はこれを「甘やかし」と考えています。一方で、子どもが進む方向について指示を出さず、進むか進まないかも含めて子どもに任せ、でも関心を持って見守るのが「愛情」だと思っています。

かつて私も甘やかす親でした。ゲームばかりする子どもを叱り、ゲーム機を壊したこともあります。転機となったのが、長男が中学3年の時でした。やんちゃで学校に遅刻してばかりの彼に対し「不登校の子どもと同じように接しよう」と決めたんです。「遅刻してでも頑張って学校に行った」と考えれば優しくできます。とにかく小言を言わないよう態度を変えました。

すると親子関係も、家庭内の雰囲気もずっと良くなりました。「学校に通えている子どもでも、不登校の子どもに接するように接してもいい。最初からそうしておけばよかった」というのは、人生最大の発見でした。この経験から、子どもを信じることができるようになりました。

家のご飯は好きなものを楽しく食べる

子どもの好き嫌いに悩んでいる親もたくさんおられます。うちもそうです。でも「少しでも食べなさい」などと言って、食卓を暗い雰囲気にする必要はありません。子どもたちは学校給食を頑張って食べています。自宅での食事ぐらい、目くじら立てず、好きなものを楽しく食べさせてあげてください。

親が機嫌よく過ごすことが、子どもの自己肯定感に

「子どもの自己肯定を育てるにはどうしたらいいですか?」と聞かれることがあります。それは、親が子どもと一緒にいて機嫌よくしていることです。親の機嫌が良ければ、子どもはリラックスでき、自分はこのままでいいんだと思えます。

ただ機嫌のいいふりは、すぐに見抜かれます。機嫌よくできないのは、子どもの問題でなく、親自身の問題です。親が、幸せに生きる大人の見本となれるようにしたいですね。

たなか・しげき 1965年東京都生まれ。京都大医学部卒。仁愛大人間学部心理学科教授などを経て、現在は佐保川診療所長。著書に「子どもを信じること」(さいはて社)。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース