猫と泊まろう「にゃんたん市プロジェクト」 「猫にストレス」「逃げたら捕まらない」保護団体から批判→南丹市が方針見直し「不手際あった」

京都新聞社 京都新聞社

 京都府南丹市は、猫や犬にやさしいまちづくりを目指して始めた「にゃんたん市プロジェクト」で、猫と過ごせる宿泊施設を増やすとうたった点について見直しに入った。縄張り意識が強い猫にとって旅行は大きなストレスとなる上、脱走のリスクも高まるなど、専門家や愛護団体から疑問の声が上がったためだ。始動から約1カ月で修正を迫られた市は「猫の生態などを調べられていない点で不手際があった」と反省している。

 同プロジェクトは11月17日にスタート。ふるさと納税の仕組みを活用しネットを通じて寄付を募り、企業と連携した猫グッズの作製に加え、猫と泊まれる施設や一緒に撮影できるスポットを増やしていくとしていた。

 しかし、宿泊施設の取り組みについて、交流サイト(SNS)を中心に批判的な意見が相次いだ。愛護活動を展開する「ぜろの会」(京都市上京区)の根津さゆりさん(62)が12月上旬、ツイッターでプロジェクトについて「室内飼育の徹底は今や常識的なルール」「猫は逃げたら捕まらない」と問題に触れたところ、幅広く拡散。「思慮も企画も浅はか」「猫にとってストレス。生命の危険も大きい」との声が渦巻いた。

 また地元の愛護関係者からも反対の声がある。野良猫を捕獲して不妊、去勢手術を施した上で元の場所に戻す「TNR」活動に力を入れる南丹市園部町の愛護ボランティア(52)は発表直後に市役所に直接伝えた。同プロジェクトでは不妊、去勢手術の費用を助成する方向性を示すが「手術していない猫が逃げて野良猫化したら、妊娠、出産して猫が増える。助成方針と矛盾する」と話す。

 市は懸念を踏まえ、猫と泊まれる宿泊施設や撮影スポットを増やす点についてゼロから見直す考えに転じた。寄付を募るサイトでは、宿泊などに関連する記述をいったん削除した。プロジェクトを練る際に専門家や愛護団体の意見は聞いていなかったといい、市情報課は「意見に耳を傾け、喜んでもらえるプロジェクトにしたい」としている。

 猫はなぜ旅行に向いていないのか。

 「猫はいつもいる場所に対する執着がとても強い」。猫研究の第一人者で、「ねこはすごい」などの著書がある山根明弘西南学院大教授(動物生態学)は指摘する。例外的な猫を除いては心理的なストレスとなって体調を崩す懸念があり「無理に連れて来られた場所から逃げ出すことも十分に想定される。建物から出てしまうと捕まえるのは困難」という。

 京都市出身の俳優杉本彩さんが代表理事を務める動物環境・福祉協会Eva(東京都)の担当者も「正しく猫と暮らしている人なら、一緒に旅行という選択肢は選ばないと思う」とする。

 動物を快適な環境で飼う「アニマルウェルフェア」の理念に逆行するとの指摘もある。アニマルウェルフェア推進ネットワーク(神奈川県)の多田和恵代表は「習性を調べず、旅を推奨するのは自治体として無責任」と南丹市の姿勢を疑問視する。

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