「社長出せ」「板挟みで疲弊」 “値段据え置き”は美談じゃない、スーパーの裏側で起きている現実

浅井 佳穂 浅井 佳穂

 「社長を出せと言われた」「メーカーとスーパーとの板挟みになって疲弊して退職する社員がいる」。スーパーマーケットに食品トレーなどを卸売りする会社に勤務する女性はこう証言します。女性に、スーパーの値上げの裏側で起きている現実を聞きました。

 女性は、西日本のある県でトレーや秤(はかり)、パック詰め機器などをスーパーに卸す問屋に勤めています。

 女性によると、昨年秋から今年初めにかけて、トレーや食品パックのメーカーが10%ほどの値上げを通告してきたといいます。

 今年2月には、ロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。原油高にコンテナ不足などの影響が加わったため、メーカーは春から夏にかけ、さらに15%の値上げを伝えてきました。

 女性は「20年以上勤めているが、こんなに値段が上がるのは初めて」と話します。

 しかし、値上げ分をそのまま卸値に反映することはできません。卸先のスーパーは、値上げを一桁%に抑えるよう求めるほか、ほかの安い品物に替えて納入するよるよう要求するからです。問屋がやむなく値上げ幅を縮小したり、安い代替品を納めたりする場合もありますが、そうしたことは問屋の利益が縮小することに直結します。

 それだけではありません。女性はスーパーの担当者から「今までこんな値上げはなかった」「また値段を上げるのか」と言われたことがあったと証言します。さらに「あんたより上の人を出してこい」「社長を出してこい」といった無理な要求や「今後の取引を考えさせてもらう」といった言葉も投げつけられたそうです。

 一方、メーカー側は問屋との値上げ幅の交渉に応じなくなってきていると言います。今までは安くするため、競合他社に発注先を切り替えることができました。しかし、最近は原料費や電力料金の高騰を受け、安い値段では他社が新たな注文を受け付けてくれないことがあります。

 こうしたメーカーとスーパーとの間で板挟みになり、ハードな値上げ交渉で疲弊する営業担当社員が増えていると言い、女性の勤務先では営業担当が2人退職しました。

 今年も残りわずかですが、ロシアによるウクライナ侵攻は長期化の様相を見せ、円安も依然続いています。女性の元には、すでにメーカーから一部の容器や資材をさらに値上げするとの通告が来ているそうです。

 女性は「スーパーも(女性の勤務先のような)問屋も努力している。『値段据え置き』をうたうようなスーパーがあるが、安さの裏でしんどい思いをして無理をしている人もいると知ってほしい」と訴えます。 

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