台湾は「民主主義」と「権威主義」の戦いの最前線 米中首脳会談で明らかになった、深刻な溝

治安 太郎 治安 太郎

11月14日、G20首脳会合に合わせる形でインドネシア・バリ島を訪れた米中首脳が対面で会談した。バイデン大統領、習国家主席が指導者として対面するのは今回が初めてで、会談は3時間に及んだ。今回の会談の中で筆者が最も注目したのは、台湾問題について、習氏が「台湾問題は中国の核心利益中の核心である」と発言した箇所だ。

今年8月はじめにペロシ米下院議長が台湾を訪問したことで、中国は報復的措置として台湾を取り囲むような軍事演習を実施し、中国軍機による中台中間線超えや台湾離島へのドローン飛来などが激増するなど、昨今米中関係はこれまでになく冷え込んでいた。そのような中、米中の指導者が互いに関係悪化を望まないと確認し合ったことには大きな意義があろう。

しかし、根本的な問題は何ら解決されておらず、競争が対立に発展しないよう対話を継続することでは合意したものの、むしろいくつかの問題では双方の核心が強く滲み出る会談だった。特に、台湾問題の深刻さは誰が見ても明らかだ。

冒頭で述べたように、今回の米中首脳会談で習国家主席は台湾を“核心の核心”と呼んだ。では、核心の核心とは何なのだろうか。習国家主席はこれまで、台湾に加え香港、チベット自治区、新疆ウイグル自治区などを中国が絶対に手放せない核心的利益と位置づけてきた。だが、近年、この中でも台湾はワンランク上位に位置づけられている。それには2つの理由がある。

1つは、台湾とその他3つの置かれた状況の違いである。国家安全維持法が敷かれた香港では、2019年に民主派による抗議デモが激化したが、今日それは完全に鎮圧され、事実上“香港の北京化”が実現された。習国家主席はチベット自治区や新疆ウイグル自治区での反政府的な動向を懸念しているものの、地元民への監視や圧力は徹底され、習氏が警戒するような大きな問題は今日生じていない。

しかし、核心的利益の中でも台湾を巡る状況は全く異なり、北京に対抗する勢力(蔡英文政権)が諸外国と関係を強化している。仮に、台湾独立の動きがエスカレートすれば、それによってチベット自治区や新疆ウイグル自治区などで分離独立的なドミノ現象が活発化する可能性があり、習氏はそれを強く警戒している。だからこそ今、習氏にとっては台湾との戦いが極めて重要なのだ。

もう1つは、グローバル化する台湾問題だ。従来、中国にとって台湾は内政問題であり、習氏は秋の共産党大会で台湾独立には武力行使も辞さない構えを改めて強調した。そして、多くの人も台湾問題はローカルイシューいう認識を共有してきたが、今日その質が変化している。

米中の経済力や軍事力が拮抗し続ける中、蔡英文政権は欧米諸国と結束を強化することで中国に対抗し、自由や民主主義を守る姿勢を強調している。中国を唯一の競争相手と定義するバイデン大統領も、台湾問題を民主主義と権威主義の戦いの最前線と位置づけ、欧州各国による台湾問題への政治的言及も近年激増している。要は、台湾統一とは単に中国が悲願の目標を達成するという事実に終わらず、権威主義に民主主義が敗北するという、我々にとって「負の歴史」になる恐れがあるのだ。

台湾を統一できれば、台湾を対米防衛の軍事的最前線にしたい中国は軍事的にさらに勢いづくだろう。米軍をけん制し続けることにより、西太平洋での軍事的プレゼンスを高めたい中国としては、何としてもグローバルイシューである台湾問題で勝つ必要がある。核心的利益の中でも、香港、チベット自治区、新疆ウイグル自治区はローカルイシュー、台湾はグローバルイシューとなり、台湾は正に核心の中の核心になっている。今後、核心的利益の上位になった台湾を巡る米中の攻防はいっそう激しくなるであろう。

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