一緒に暮らせなくても…甘えていいよ、家族だよ 画期的な制度で“里親”ができた、ひなこちゃんの2年にわたる幸せな思い出

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

猫と暮らしたいと思っていても、住環境や家庭環境で断念している方も少なくありません。それでも猫との絆を結びたいと思う方に向けた画期的システムがあります。それは「フォスターペアレント制度」です。大阪府高槻市で活動をする保護猫団体、高槻ねこの会が提案するこのシステムは、猫と暮らせなくても「家族」になれるというもの。

フォスターペアレントとは、英語で「里親」「育ての親」という意味。猫の生みの親に人間はなることはできませんが、猫の食費や医療費を月額500円負担してもらうことで育ての親として接してもらう。高槻ねこの会のシェルター「ねこのおうち」に在籍している猫なら、全員が対象となります。

黒猫のひなこちゃん(9歳)も、フォスターペアレント制度で家族ができた1匹です。ひなこちゃんは元野良猫で、猫エイズキャリア。しかも、右耳に膿が溜まり切断をせざるを得なかったことも重なり、新しい家族が見つかる見込みは少なそうでした。

そのせいか、ひなこちゃんは難しい性格に。「ねこのおうち」で一緒に暮らす猫と交流することはほとんどなく、ご飯の時間も他の猫が食べ終わってから。お世話をしてくれるボランティアスタッフにも愛想をふりまくこともないんです。

そんなひなこちゃんに「家族になろう」と言ってくれた男性が現れました。寝屋川市に住む50代の男性、Oさんです。家に迎え入れるのは難しいけれど、ひなこちゃんの力になりたい。そこでフォスターペアレント制度を使い、「育ての親」になることにしました。2020年5月のことです。

「今日から僕とひなこは親子だよ」

最初、ひなこちゃんはピンとこなかったみたい。しかし、月1回でも自分に会いに来てくれているのは分かるのでしょう。嫌だった抱っこも嬉しくなりましたし、お父さんにしてもらうブラッシングは気持ちが良い。ついには、他の猫がOさんのお膝に乗ろうとすると怒るようになったんです。

「わたしのおとうさんだから、ほかのこはダメ」

自己主張なんて今までできなかったのに、Oさんがいてくれるだけでひなこちゃんは勇気が出たんです。ひなこちゃんの表情はどんどん和らいでいきます。顔のパーツはひとつも変わっていないのに、とても可愛い女の子になったんですよ。

しかし、コロナ感染者が多い時期、3カ月間は面会ができませんでした。Oさんはもう忘れられているかも…と心配になったものの、ひなこちゃんはお父さんを忘れていません。Oさんが「ねこのおうち」の玄関に現れると、飛んで来てくれたんです。

「おとうさん、わたし、いいこにしていたよ」

会えなかった時間の分、ひなこちゃんはOさんにたっぷり甘えました。このひなこちゃんの様子に、Oさんは「家に迎え入れられない」という固定概念を崩そうと考えました。まずは住環境を整えないと…。多忙な中、ひなこちゃんを家に迎える準備を始めたのです。

そんな矢先、ひなこちゃんの容態が悪化。まさかの猫エイズ発症です。9歳まで穏やかにいられたのに…。2022年6月25日、ひなこちゃんは虹の橋のたもとへ旅立ちます。Oさんと親子になって2年と1カ月でした。

今、ひなこちゃんのお骨は、Oさんの家のリビングにあります。毎朝毎夕、Oさんはひなこちゃんに声をかけるんですよ。

「お父さんの娘になってくれて有難う」

Oさんはひなこちゃんと出会わなければ、仕事も何もかも人から言われるがままの人生だったと言います。ひなこちゃんがいてくれるから、背筋を伸ばして生きられた。

現在、Oさんはひなこちゃんと同じく猫エイズキャリアのバロンくんと暮らしています。ひなこちゃん分も愛情を注ぎたい。そんな思いで迎え入れました。

猫エイズキャリアであっても、誰かに大切に思ってもらえる。これが当たり前の社会になりますように。

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