塩飽水軍、漂流郵便局、タコやイリコ… 魅力満載の瀬戸芸秋の島旅を徹底解説

山陽新聞社 山陽新聞社

 瀬戸内海の島々を舞台とする現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭2022」(瀬戸芸)は最終シーズンの秋会期を迎えた。香川県の中西讃4島が会場に加わり、魅力がアップ。夏のぎらつく日差しも和らぎ、秋は島旅のベストシーズン。毎回、瀬戸芸の会場12島2港を“制覇”しているさんデジ編集担当の記者が西の島を実際に巡りながら、島の歩き方を解説する。

 島本来の雰囲気残す西の島々

 秋会期のみの会場となる西の4島は、瀬戸大橋西側に位置する塩飽諸島の本島(丸亀市)、高見島(多度津町)、粟島(三豊市)と、荘内半島西に浮かぶ伊吹島(観音寺市)だ。これらの島々は2013年の第2回芸術祭から加わった。瀬戸芸といえば、直島や豊島といった常設美術館を備えたり、おしゃれなカフェが楽しめたりする「アートの島」を思い起こすだろう。だが、西の島々は瀬戸芸向けの観光開発が施されてなく、瀬戸内海の島本来のひなびた雰囲気を色濃く残しているのが特徴だ。

 4島の巡り方を紹介しよう。まず、伝えておきたいのが、これらの島を1日で回ることは時間的に無理。会期中航路で結ばれる本島―高見島―粟島と、西に離れている伊吹島を分けて訪れるのが合理的な旅程だ。1日3島だと1島あたりの滞在時間が2時間。主だった作品を見るには十分な時間だが、かなり体力を消耗する。のんびり島を楽しみたいのであれば訪問島数を調整することも考慮に入れたい。

 本島を除き、作品群は港の近くの徒歩圏内に集中している。島内交通を気にすることはないが、急な坂道が続く地形が多く、歩きやすい服装と靴で行こう。来島者向けのレストランや食堂は少ないが、芸術祭も回を重ね、秋会期限定で開く店もあるので、昼食に困ることはなくなってきた。週末は船が込み合うが、臨時便が結構出る。港に着いたら帰りや次の島の便をチェックしよう。

 本島で古い家並みとアート堪能

 本島は古くから海運、廻船業を担った塩飽水軍の本拠地として有名。船大工から転じた家大工や宮大工を多く抱え、島内には歴史的建造物が多い。アクセスは、本州側は倉敷市・児島観光港、四国側は丸亀港から定期船が出ている。

 10月1日、児島観光港を午前9時半に出発。10時に本島泊港に着く。土曜日とあって船は瀬戸芸目当ての観光客でにぎわう。本島で気を付けたいのは、作品が集中する笠島地区まで距離があること。道のりは約2キロ。歩いて20分くらいだが、時間と体力をセーブするためにできればレンタサイクルかバスを利用したい。会期中は臨時バスが発着している。

 週末にもかかわらず、今回は幸運にもレンタサイクルを借りることができた。笠島地区へ行く途中、瀬戸大橋が間近に眺められる絶景ポイントがあり、ここで小休止。ちょうど「善根湯×版築プロジェクト」の作品あたりだ。国の伝統的建造物群保存地区に指定されている笠島は古い家並みが連なり、民家の中に展開されるアート作品を堪能できる。新型コロナウイルス対策の訪日外国人観光客受け入れが緩和されたことから、欧米のツアー客にも遭遇した。

 高見島は新作がめじろ押し

 午前11時50分本島泊港発の臨時便で次の島・高見島へ。午後0時25分着。人口20人余りのひなびた島で、かつては除虫菊の栽培で知られた。ここは秋会期の会場で記者イチ押しの島だ。まず、高見港から徒歩圏に作品が集中している。京都精華大とタイアップした作品群が充実。石垣沿いの細い路地と急な階段という島ならではの雰囲気が味わえるのもいいが、かなり足に負担が来るのは覚悟してほしい。

 港に着くと彫刻家・内田晴之さんが作り上げたばかりの大作「Merry Gates」が出迎えてくれる。坂道を上っていくと作品を収めた空き家が並び、効率よく鑑賞できる。今回は展示作品14点中10点が新作という力の入れようだ。個人的には過去の芸術祭から展示されている中島伽耶子さんの「時のふる家」「うつりかわりの家」がお気に入り。薄暗い家屋内に外の光を呼び込み、幻想的な雰囲気に包まれる。

 昼食は港近くの「喫茶あい」で取った。名物の「たこ飯定食」(600円)をいただく。タコがたくさん入っていてうまい。高見島はタコ漁が盛んだが、店主によると、ここ数年はタコが捕れなくて値が上がっているという。島には高菜や具をまぜた郷土料理「菜めし」もあり、次回はチャレンジしたい。

 週末なら粟島の漂流郵便局へ

 高見島を早めに切り上げ、午後2時5分の臨時便で粟島を目指す。高見島はゆっくり見てほしいので、定期便の午後3時10分発をお勧めする。記者が急いだのは今回、粟島で時間を取りたい訪問先があったからだ。

 それは「漂流郵便局」。2013年の瀬戸芸作品として旧粟島郵便局を使って制作され、実際に郵便局長をしていた中田勝久さん(88)が「局長」を務める。今は亡き両親や未来の自分などへ思いをしたためた届け先のない手紙を全国から預かり、局内に展示している。ユニークな企画が注目され、会期終了後も引き続き中田さんが管理し、引き続き運営を行っている。

 コロナ禍で臨時休業を余儀なくされた時期もあった。今年に入り、テレビドラマ「ミステリと言う勿(なか)れ」のロケ地となったことから、注目度が再び上昇。届く手紙が増え、現在は5万通に達したという。「当初は芸術祭終了後に撤去する予定でしたが、やめられなくなりましてね」と笑う中田局長。多くの人たちの癒やしにつながったことから、「元気なうちは続けたい」と言葉を継ぐ。

 瀬戸芸会期中は通常月2回の開局日を拡大し、土日祝日の午前10時~午後4時半に来島者を待っている。入館料300円。

 粟島港の近くでは淡い緑色の粟島海洋記念館が存在感を放つ。1897(明治30)年に開校した日本最古の海員養成学校だ。この港周辺にほとんどの作品群があり、徒歩で巡れる。レンタサイクルや電動キックボードのほか、乗り合い電気自動車も走っている。午後4時53分発の臨時便で島に別れを告げ、香川県三豊市の須田港へ上陸。シャトルバスを利用してJR予讃線の詫間駅から鉄道で岡山駅に戻ったのは、午後7時3分だった。

 伊吹島では特産のイリコを堪能

 翌2日、前日の足腰の疲れが残る中、伊吹島を目指して瀬戸大橋を渡り観音寺へ。JR予讃線観音寺駅から徒歩5分の市民会館から観音寺港へのシャトルバスが出ている。午前11時20分観音寺港発の船に揺られて25分。燧灘(ひうちなだ)のほぼ中央に浮かぶ伊吹島は、有人島としては香川県最西端。

 有名なのは、特産のイリコ。夏場が漁期だが、港の加工場からはイリコのにおいがしてきた。作品が集中する島南部の集落でまずは腹ごしらえ。民家を改装した「お休み処まっちゃん」で「いりこ飯定食」(600円)をいただいた。いりこごはんに天ぷら。口の中に磯の香りが広がり、美味。

 細い坂道が入り組む集落では、島民のミニバイクとよく遭遇するので、島内は右側通行に心がけよう。集落を抜けると、巨大な根のような栗林隆さんの作品「伊吹の樹」が見えてくる。2019年の前回芸術祭で制作され、西讃4島の作品群の中でも人気が高い作品だ。半世紀前まで続いた島の風習で、出産を終えた母子が漁の労働から離れて共同生活した「出部屋」がモチーフ。母胎(ぼたい)を表す樹の中には鏡が張り巡らされ、青い空と海が映し出される。

 真浦港でお土産に一袋500円のイリコを購入。岸壁で島の人たちが大漁旗を振って見送る中、午後3時の船で帰路に就く。観音寺港からシャトルバスと徒歩でJR観音寺駅へ。特急しおかぜでJR岡山駅に着いたのは午後5時11分だった。

 瀬戸芸のパスポートアプリを見ると、観賞した作品は4島で36点。2日間の歩数は計3万6千歩。取材のため、2日間の強行軍だったが、秋会期は11月6日までと長い。何回かに分けてゆったりと都会とはまったく異なる島の雰囲気や文化を堪能してほしい。

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