朝ドラ『おちょやん』のスタッフ・キャストが送る、“尼崎発ドラマ” 『あなたのブツが、ここに』制作統括に訊く

「今、リアルな“コロナ禍ドラマ”を作った理由」中編

佐野 華英 佐野 華英

 元キャバ嬢の宅配ドライバーがコロナ禍の尼崎の街を走り回る「夜ドラ」『あなたのブツが、ここに』(NHK総合 月〜木22:45〜)は、まさに「関西から日本全国に届ける“応援歌”」だ。制作統括の櫻井壮一さんに、このドラマにかける思いをうかがった前編・中編・後編の中編)

一一制作統括の櫻井さんをはじめ、プロデューサー、演出など、朝ドラ『おちょやん』を作ったNHK大阪局のスタッフも多数参加されていますね。

櫻井壮一さん(以下、櫻井) 『おちょやん』チームで固めるという意図はまったくなかったんですが(笑)、たまたま多くなってしまいましたね。結果として気心の知れたスタッフで、僕としては非常にやりやすかったですし、今回の作品で新たに加わったスタッフもみんな熱心に取り組んでくれて、『あなブツ』チームとして一丸となって制作することができました。脚本の櫻井剛さんは、『おちょやん』を観てくださっていたようで、以前から「すごく面白い。とくにテルヲ(ヒロイン・千代の父)の描き方と結末のつけ方に驚嘆した」との言葉をいただいていました。「渡りに船」とばかりに脚本をお願いしてみたら、快くお引き受けいただきまして。初めてお会いしたときから、とても優しい方という印象を受けました。剛さんの優しさが、このドラマの脚本によく現れていると思います。僕はどちらかというと、シビアな現象のほうに目が行きがちなんですが、そこを剛さんの「人に寄り添う」台詞が柔らかく補ってくれていると感じます。もちろん、ドラマに「希望の種」を作りたいというのはスタッフの総意なのですが、それをシーンとして、台詞として、剛さんがきっちりと起こしてくださっているので、心を打つのだと思います。

一一亜子役の仁村紗和さんと、その娘・咲妃役の毎田暖乃さんは『おちょやん』にも出演されていました。

櫻井 亜子役の俳優さんは「キャバクラ嬢から宅配ドライバーに転身して違和感のない人」というのが絶対条件だったのですが、これが難しい。達者な役者さんは沢山いらっしゃるし、役で作ろうと思えばそれなりにできるんだけれど、佇まいとして自然にしっくりくる人は、なかなかいない。そこを考えたときに、やっぱり仁村さんでした。毎田さんは『おちょやん』のヒロイン・千代の少女期役のオーディションのときから「群を抜いている」という印象がずっと続いています。なんでこんなにすごいのか、僕もわからないんですけれど。本当にすごい人って「何がどうすごい」って簡単に言えないんですよね。特に、祖母の美里(キムラ緑子)、亜子、咲妃の三代が揃うシーンが素晴らしいです。「いったいあの空気はどうやったら出るんだ!?」と圧倒されます。

一一尼崎を舞台に選んだ理由は?

櫻井 宅配ドライバーのドラマを作るとなると、舞台がどういう街であるかがとても大事だと考えました。亜子と配送先との関わりが重要になってくると思ったので、都会すぎず、田舎すぎず、独自の「色」や「匂い」がある街がいい。劇中、尼崎の実景の引きの画(え)がよく出てくるのですが、あれがとても効いていると思います。それからやはり、「言葉」ですね。「普段着の関西弁」の良さを含めた空気感をちゃんと伝えたいという思いが、第一にありました。

一一配送先のおばあさんが、亜子に「飴ちゃん」をくれるシーンなど、「関西人の良さ」が出ていると思いました。

櫻井 あれは実際に宅配業者さんに取材する中で拾ったエピソードです。櫻井剛さんがすごくいい形で脚本に活かしてくださいました。配送先で亜子が「シッシッ」とされるくだりも取材で聞いた逸話ですが、その先の「実は要介護の家族がいて、感染を強く恐れるあまり、ああいう行動に出た」というエピソードは、剛さんのアイデアです。視点をくるりと変えて「あちら側」から見てみたら、また違う景色が広がっている。これは、このドラマのスタンスのひとつではないかと思います。

▶︎後編「『バカサバイバー』のED制作秘話と、ドラマにこめた想い」に続く

『あなたのブツが、ここに』公式サイト

関西地方で9月24日(23日深夜)、25日(24日深夜)、26日(25日深夜)、第1話から一挙再放送が決定。「一挙再放送」はNHKプラスでも見逃し配信します。

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