新型コロナ、日本の新規感染者「世界最多」をどう考えるか データから見る第7波

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

「新規感染者『世界最多』」をどう考えるか

新型コロナの我が国の一日当たり新規陽性者数が20万人を超え、第7波における世界最多を記録しています。今週に入り少し減少傾向にはありますが、お盆の帰省や各地のお祭りなど、不安な気持ちで過ごされている方もいらっしゃるのではないかと思います。

「現在、日本が世界最多の新規感染者数を記録している」とはいっても、日本国民の行動が何かいけなかったとか、そういうことでは全くありません。むしろ日本は、マスク着用や水際対策等、世界の中でも、厳しいルールをいまだに守っている国です。

今回の感染者急増の要因として、「猛暑でのエアコン使用による換気の減少」、「人流の増加」「ワクチン接種後の時間経過による効果の低減」といったことが挙げられることがありますが、これらは、基本的に他国でも同様です。

ではなぜ、日本の第7波での新規感染者数が『世界最多』になっているのでしょうか?

「他国は日常を取り戻しているというのに、日本は一体どうなるの?」と、先行きに不安をお感じの方もいらっしゃると思うので、データを基に、ちょっと詳しく考えてみたいと思います。

なお、新興感染症の流行の波というのは、何度も繰り返しやってくるもので、大きく見れば、必ずしも人間の行動に感染の波の動きが連動しているわけではなく、またそもそも、人間がウイルスの動向を完全にコントロールできる、という考え方自体が、正しいものではない、と私は思います。新興感染症の動向については、「説明ができないこともある」というのが、科学や自然に対する誠実な態度ではないかと思います。

それから、後半でご説明していますが、米国、英国等は、コロナ規制の撤廃や大幅緩和に伴って検査数も大幅に減少しており、現下の感染状況を正確に反映していない可能性があります。また、一方で、日本は、元々の検査数が少なく、さらに感染者急増で、発熱外来の予約がなかなか取れず、結果として検査が行われていない、あるいは(自主検査で陽性でも)報告がなされていないケースもあると考えられ、実際の陽性者数はさらに多い可能性もあります。

感染のピークや流行地域は変わってくる

 現在は日本が世界最多の新規感染者数ですが、例えば第6波のとき、各国の新規感染者数は、米国約80万人、韓国約40万人、フランス約30万人等(1日当たり直近7日間平均)でした(図1)ので、日本にはピークが遅れてやってきたということでもありますし、さらに、現在の人口当たり新規感染者数でみると、韓国、日本、オーストラリア、ニュージーランド、台湾が上位を占め、欧米は少なくなっています(図2)ので、流行地域が移っていっているという見方もできます。また、日本は人口が世界で11番目に多い国(国連人口基金(2022))であるということも踏まえて考えます。

つまり、決して、日本だけがひどい目に遭っている・日本のなにかがいけなかったということではなく、日本近隣の東アジアやオセアニアの先進国も今は同じような状況にあり、そして、累積感染者数や累積死者数(図3、図4)を見ても、欧米は、これまで一層ひどい経験をすでにしてきている、ということが、今の状況を的確に捉えていただくことになるのではないかと思います。

これまでの感染者数が少ないため、抗体を持つ人が少ない

日本は、新型コロナウイルスに感染した人の人口に占める割合が、諸外国と比較すると少ない状況にあります(図4+下記データ)ので、(ウイルスに様々な変異があり、免疫逃避もあるものの)免疫を持つ人が少なければ、やはりそれだけ感染は広がりやすくなります。感染力の強いオミクロン株BA.5であれば、なおさらです。この点について、少し詳しく見てみます。

(※)人口に占める新型コロナ累積感染者数の割合(2022年8月10日現在)
デンマーク55.5%、フランス50.1%、スイス46.0%、韓国40.2%、ベルギー38.3%、ドイツ37.7%、オーストラリア37.5%、英国34.9%、ニュージーランド32.7%、スペイン28.0%、米国27.5%、台湾20.1%、日本11.9%

過去に新型コロナウイルスに感染したことがあるかどうかを判断する方法のひとつに、採取した血液(血清)を用いて、抗ヌクレオカプシド(N)抗体という抗体の有無を見るという方法があります。(抗S 抗体は、ウイルス感染とワクチン接種により誘導され、抗 N 抗体はウイルス感染のみで誘導されます。)

以下、日米それぞれの調査結果です。

日本の国立感染症研究所の調査によれば、抗N抗体を有する人(+新型コロナウイルス感染症の診断歴のある人(感染しても抗N抗体ができない人がいるため))の割合は、2021年12月の調査(対象8147人)で2.50%、2022年2月の調査(対象8149人)で 4.27%でした。また、年齢別の既感染者割合は、60 代以上の高齢者に比べて 20-50 代で高い傾向が見られました。

米国CDCの血清有病率調査によると、2021年9月-12月(対象73869人(中央値))と2021年12月-2022年2月(対象45810人)のデータで、抗N抗体を有する人の割合は、全体で33.5%→57.7%、18-49歳で36.5%→63.7%、50-64歳で28.8%→49.8%、65歳以上で19.1%→33.2%という変化を示しました。

こうしたデータからは、日本はこれまで新型コロナに感染した人が少なく、感染による免疫を持つ人の割合が少ない状況の中で、感染力の強いBA.5が流行したことで、今回、感染数が大幅に増加したと推測することができます。

なお、上記CDCの調査でも指摘されていますが、抗N抗体を保有していることが、将来にわたる感染を予防するものではなく、ウイルスのさらなる変異等によって、他国でも再び感染拡大が起こる可能性は、もちろんあります。

ワクチンによる免疫と自然感染による免疫

「日本は既感染者が相対的に少なく、新型コロナの免疫を持つ人が少ないというが、ワクチン接種率は他の先進国同様に高く、ワクチンによる免疫があるはずではないのか」というご疑問が出てくるのではないかと思います。

一般的に、ワクチンの効果は、時間の経過とともに、また、変異したウイルスに対しては低減していきます。現在までに接種が行われている新型コロナウイルス従来株に対応したワクチンは、オミクロンBA.5に対しては、重症化予防効果はあるものの、感染予防効果は低下しているとされます。

イスラエルのデータを利用した研究では、感染に対する予防効果は、ワクチン接種よりも自然感染経験者の方が長く持続することが示されています。

また、米国の研究では、ワクチン接種者も、オミクロン株のBA.1やBA.2に感染した者でも、ともに、オミクロン株BA.4とBA.5に対する中和抗体価が低く、オミクロン株が免疫逃避傾向を強める方向に進化していると報告されていますが、一方で、BA.1、BA.2に感染した経験を持つ人は、全く感染経験の無い人や、オミクロン以前の株に感染した人に比べると、BA4、BA5への高い感染予防効果があるという研究結果があります。

抗体保有率と陽性者数割合の差等について

報告された検査陽性者数から見た、2021年12月末と2022年2月末時点での、日米それぞれの人口に占める累積陽性者数の割合は、日本は1.4%→4.0%、米国は16.3%→23.5%となっています。(Our World in Dataより)

感染した人の割合を示す抗N抗体の保有率と、人口に占める検査陽性者数の割合との間で数値に差があるのは、新型コロナウイルスに感染しても発症しない方が多くおり、そういう方は基本的に検査を受けない(感染していても、自分が感染しているということに気付かないので)こと等が理由として考えられると思います。

検査数について

米国、英国等欧米諸国では、コロナ規制の撤廃や大幅緩和に伴って検査数も大幅に減少しており、例えば、2022年1月と4月で、米国や英国では、検査数が3分の1程度に減少しており(図5)、現下の感染状況を正確に反映していない可能性があります。

また、一方で、日本は元々の検査数が少なく、さらに今回の感染者急増で、発熱外来の予約がなかなか取れず、結果として検査が行われていない、あるいは(自主検査で陽性でも)報告がなされていないケースもあると考えられ、実際の陽性者数はさらに多い可能性もあります。(日本の「全数報告」は、あくまでも医療機関で検査を受けた場合に医師に課せられている義務です。)

各国の新規感染者数と新型コロナによる死者数の推移を比べてみると(図6)、米国、英国、スペインなどは、検査数減少以降、死者数の増加と陽性者数が連動していない(死者数は増えているのに、陽性者数は増えていない)ので、おそらく実際の陽性者はもっと多いということだろうと思います。

今回ご説明したかったことは、(新興感染症の動向については、明確に説明がつけられないことも多いわけですが)、今回我が国が世界最多の感染者数を記録しているのは、これまで感染者が少なかったことが大きな要因のひとつと考えられること、感染拡大は日本だけではないこと、国民の皆様の行動のなにかがいけなかったわけではないということ、そして、歴史を見ても、新興感染症の感染の波というのは増えたら減っていき(繰り返しはしますが)、また、パンデミックも必ず終わりがきます(ゼロになるということではなく、状況がある程度落ちついて、通常の感染症の取扱いになる、という形が多いです。)。

高齢の方にお会いに帰省なさる場合には、事前に検査を受けるなど、それぞれの方が可能な感染対策に留意しながら、ようやくの行動制限のないこの夏を、できるだけ前向きにお過ごしになれるとよいなと思います。

次回以降、医療現場の状況や、負担軽減のための現状の取扱いの変更の必要性、新型コロナの感染症法上の分類変更などについて、考えてみたいと思います。

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