大人気絵本作家ヨシタケシンスケさん、創作を語る 圧巻のスケッチメモ…兵庫で展覧会が開幕

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ユーモラスな世界観で幅広い年代から人気を集める絵本作家・ヨシタケシンスケさんの展覧会が、伊丹市の市立伊丹ミュージアムで開かれています。40歳でのデビュー作「りんごかもしれない」から間もなく10年。普段は気にも留めない人のしぐさや現象を切り口にしつつ、気付けば宇宙空間にまでストーリーを広げてしまうヨシタケさんに、創作に込めた思いを聞きました。

—作品は、小さな主人公たちが、常識や「普通」を突き詰める大人顔負けの展開も多い。幼少期のヨシタケさんはどんな子どもでしたか。

「僕は人一倍、常識を気にする子どもでした。『こうしたら怒られるかな、非難されるのかな』っていうことをいつも考えていましたね」

「一方で、おもしろさというのは、常識を少し外れたときに発生することにも気付いた。でもその振れ幅を間違えると、周りが“ドン引き”しちゃうこともある。常識との距離感をうまくつかむことで、どこまでが『クスッと笑えること』で、どこからが人を白けさせるのかを、つかみ取ることができた。常識のことばっかり考えていたことが、大人になって役に立っています」

—展示には、まるでその場で書いたようなふせんのメモや、チャック付きポリ袋に入れて掲示されたイラストもあります。

「今回の企画展は、僕の『頭の中』を再現する、つまり作品ができるまでの過程を見せるというのがコンセプト。完成されたものというよりは、仮の状態から作品がどう出来上がるのかを見てもらいたいので、会場全体が『作りかけ』をイメージしている。原画はアクリル板に入れて掲示してありますが、あえて〝安っぽさ〟を演出している部分もあります」

—壁一面に展示された約2300枚のスケッチメモは、まさに圧巻。見るのに丸1日かかってしまいそうな膨大な量ですが、日ごろのアイデアはどのようにして生まれますか。

「メモはいつも手帳につづって持ち歩いています。思いついたときに電車の中とかで書きます。でもここ1年くらい、急激に目が悪くなっちゃったな」

「絵と言葉をセットに書くようになったのは、大学を出て半年間だけ社会人をやっていた頃。会社勤めにストレスがたまって、企画書の端っこに上司の愚痴を書いていたんです。その下に、かわいい女の子の絵なんかを描いちゃって。『この悪口は僕が言ったんじゃなくて、この子のせりふなんですよ』という具合に仕立てていました。それを他の同僚に見られないために、いつでも隠せるように描いていったら、あんなに小さくなっちゃったんです」

—展示品には、色が付いていませんが…。

「実は僕、色を塗るのがすごくヘタなんですよ。紙にシャーペンで下書きをして、本番用にサインペンで描く。色づけは、デザイナーさんが担当しています」

「色塗りに励んだこともありますよ。デビュー作の『りんごかもしれない』の編集作業をしているときに、担当さんに『色は無理かもしれない』とは伝えたんです。でも自分の本だからと、僕なりに頑張って塗ってみた。案の定、ボツになっちゃった」

「その瞬間に、(色づけはしない)絵本作家・ヨシタケシンスケが誕生したわけです(笑)」

—独創的な発想を持つコツはありますか。

「よく、『想像力を高めるにはどうしたらいいか』という質問をされます。でも僕は、想像力のあるなしではなく、それをどう使うかが大事だと思っています。車と同じで、救急車は人を助けることもできるし、逆に車が暴走すると事故を起こしてしまうこともある。だから僕は、自分の想像力を使って、人を幸せにするにはどうしたらいいのかを常に考えています」

「一方で、想像力は訓練で伸ばせるものでもない。ないならないで構わないとも思います。使い方次第で人を助けたりも、傷付けたりもするということを頭に持っていたいですね」

—絵本をつくるときに心がけていることは。

「大人の僕にできるのは、子どもたちに『いろんな選択肢があるよね』ということを提案していくこと。答えの種類がたくさんあることを、世の中に見せていくということが、大人のやるべき大事な仕事の一つだし、本にできることではないかと思っています。それは昔、常識を気にしていた子どもの頃の僕が欲しかったヒントなのかもしれません」

「大人になればなるほど、『正しいこと』にはあまり意味がないことにも気付く。『きょうはどっちの道を選ぼうかな』『どんな気分だから、どう行動しようかな』という選択肢を、自分の力で決めてもいいんだよ、ということを示してあげたいと思っています」

—絵本に登場するユニークなキャラクターは、モデルがいるのでしょうか。

「子ども時代の自分の経験や、息子たちのしぐさや行動が作品の基礎になっています。子どもは『ふたが開けられない』とか『おしっこがちょっと漏れちゃった』みたいな、その時その時の成長に合わせてつまずいたり、悩んだり、怒ったりしているんですよ。それは子どもの僕が思っていた不安や怒りでもあって、『ああ、やっぱり同じか』って安心するわけです」

「ただ一方で、人は思っているほど他の人と同じでもない。そうしたズレもまた興味深いですよね。『正論を言うのは気持ちいいけど、言われるのはむかつくよね』とか(笑)。そういう世の中の『あるあるネタ』を絵本に落とし込んだりして、多くの人と共有したいですね」

—伊丹ミュージアムでの展示で工夫した点は。

「伊丹会場は、2階と地下1階に展示室が分かれています。出入り口が一つしかない会場をどう見せるか、そして(地下の)第3会場に向かうときに、エレベーターを利用するベビーカーや車いすの方にどういう動線で見ていただくかを、会場設営の担当者とよく話して決めました。結果的に(前回の東京会場より)良い見せ方ができたと思います」

—伊丹ミュージアムの展覧会は関西では初の、そして唯一の会場になります。

「僕も妻も実家は関西なんです。親戚もこっちが大多数だし、伊丹空港もよく使います。妻は今も関西弁なので、僕も家ではその口調になりますよ。粉もんも、もちろん好きです」

—最後に、メッセージを。

「会場を見て『こんな変なオッサンがおるんだな~』と思ってもらえたらいいですね(笑)」

「僕自身、絵本作家でやっていくということは思いもしなかったので、日々やっていたことの積み重ねが仕事につながったんだよということを知ってもらいたい。スケッチメモを見て『こんな絵なら自分でも描けるわ!』とか『怖! キモ!』なんて思ってもらっても構いません(笑) 僕みたいな人も世の中にはいるんだな、とニヤニヤしてもらって帰ってくれたらうれしいですよ」

「真面目なことを言うと、小さなしぐさや言動ひとつひとつに、実は世の中の真実やその人の本質が詰まっている。大小さまざまな考え方をコレクションすることで、絵本が生まれ、人間の希望が見えてくる。くだらないことを真剣に突き詰めると、宇宙の真理につながるかもしれないじゃないですか。変なオッサンのコレクションを見て、等身大の自分を探すきっかけにつながってくれたらありがたいです」

(まいどなニュース/神戸新聞・久保田 麻依子)

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市立伊丹ミュージアムで開催中の「ヨシタケシンスケ展かもしれない」は8月28日まで。午前10時~午後6時。8月の土、日、祝日は30分ごとの時間指定予約制。月曜休館(7月18日は開館、19日は休館)。大人1000円、高校・大学生700円、小・中学生400円。

▽市立伊丹ミュージアム tel:072-772-7447

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