一度は消えた老舗佃煮店の灯 京のローカルスーパー社長が継承に奔走「私たちは間違ってなかった」

浅井 佳穂 浅井 佳穂

 京都市中京区の錦市場で長年営業し、2019年に惜しまれつつ閉店した老舗総菜店の「ちりめん山椒(さんしょう)」が、京都市内のスーパーマーケットの総菜売り場に復活し、「ご当地スーパーグランプリ2022」でグランプリを獲得しました。総菜店のレシピ継承に奔走したスーパー社長は「私たちの信念と行動が決して間違いではなかったと再認識させてくれた」と語ります。

 ちりめん山椒は京都市左京区のローカルスーパー「フレンドフーズ」の総菜です。このほど全国ご当地スーパー協会(東京)が初開催した「ご当地スーパーグランプリ2022」の「ご当地スーパーみやげ部門」で、グランプリに輝きました。

 今回、出品したちりめん山椒は元々、京都市中心部の錦市場にあった総菜店「井上佃煮(つくだに)店」が出していた商品です。井上佃煮店は1884(明治17)年創業で、130年を超える老舗でした。日常のおかずを求める京都市民にも愛されていたほか、動物をかたどったカスタードクリーム入りの「ハリネズミドーナツ」も手がけ、観光客にも人気でした。しかし、商環境の変化などから2019年12月、井上佃煮店は135年の歴史に幕を下ろしました。

 閉店を惜しむ人は多くいました。京都市左京区下鴨でスーパーを営むフレンドフーズの藤田俊社長(40)もその一人。藤田社長は以前から取引があり、その味を信頼していたといいます。井上佃煮店の梅村猛さんを説得し、藤田社長は梅村さんと娘の美都さんに自身の会社に入ってもらうことしました。

 以来、フレンドフーズでは「京佃煮井上」のロゴが入った「昆布豆」や「万願寺とうがらし昆布」などが総菜コーナーに並んでいます。現在、品数は30~40種類に上ります。

 今春、「ご当地スーパーグランプリ2022」が初開催されると聞きつけた藤田俊社長は、ちりめん山椒の出品を決めました。藤田社長は理由について「いまだに井上佃煮店が復活していることは知られていない。多くの人に復活を知ってもらいたかったからです」と話します。

 藤田社長は応募に当たり、梅村さんには相談しませんでした。応募後に「出品した」と告げると、梅村さんはひょうひょうとしたいつものように「あ、ほんまでっか」と応じたといいます。

 投票は全国ご当地スーパー協会のインスタグラムで行われました。ちりめん山椒は、多くの「いいね」をはじめ、「このちりめん山椒のためならわざわざ買いに行きたくなります」「これめちゃくちゃ美味(おい)しいです。ご飯のお供にとどまらず日本酒のアテにピッタリです」などのコメントを集め、ご当地グランプリに輝きました。

 藤田社長は、普段の梅村さんについて「人付き合いを大切にし、お客さんから要望があったメニューを1週間ほどで新たにつくることもある」と話します。こうした顧客とのコミュニケーションも勝因のようです。

 今後について藤田社長は「来年もグランプリがあるなら、再び何か出品を考えたい」と話します。今後も京都発で全国の人を魅了する総菜が出てくるかもしれません。

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