ロシアが後ろ盾「未承認国家」の不気味な存在感 ウクライナ以外にも旧ソ連諸国と数々の火種 90年代から続く紛争引きずる

新田 浩之 新田 浩之

ロシアによるウクライナ侵攻の終息がなかなか見えません。しかし旧ソ連圏地域にある数々の紛争をひも解けば、今回の紛争は急に出てきた事象ではなく、事の始まりは少なくとも約30年前まで振り返れます。

 ウクライナでも見られるチェチェンの対立

ソ連からロシアになり、国内では数々の民族問題が発生しました。その最たる例がチェチェン紛争です。ロシア連邦チェチェン共和国は北コーカサスにあるロシア連邦を構成する一共和国です。ソ連崩壊と同時にロシア連邦からの分離独立を宣言。分離独立を許さないロシアとの紛争に発展しました。

チェチェン紛争は第一次(1994年~1997年)・第二次(1999年~2009年)に分けられ、プーチン大統領が抑え込む形で終了しました。

驚くべきことにチェチェンでの政府VS反政府の対立は現在のウクライナでも見られます。チェチェン共和国のトップ(首長)であるカディロフ氏はプーチン氏に忠誠を誓い、兵隊を引き連れてウクライナ国内で活動しています。一方、チェチェン反政府部隊はウクライナ側についています。

ロシア、ウクライナ以外でも火種は残っている

ロシア、ウクライナ以外の旧ソ連諸国も何かしらの火種を抱えています。もしかするとウクライナ・ロシア戦争を契機に爆発するかもしれません。

最近ニュースでも「沿ドニエストル共和国」を耳にする機会が増えました。「同国」はモルドバの中にある事実上独立はしているが、国連加盟国から認められていない未承認国家です。ここにはロシア人やウクライナ人などのスラヴ系住民が多数住んでいます。

1990年代初頭、モルドバが「沿ドニエストル共和国」の独立を阻止するために軍事行動を開始。しかし、ロシアがサポートする形で事実上「沿ドニエストル共和国」の勝利に終わり、現在に至っています。

2020年に紛争が再勃発した地域がナゴルノ・カラバフです。ナゴルノ・カラバフはソ連時代からアゼルバイジャンに属していますが、多くのアルメニア人が居住している地域です。ソ連最末期の1980年代後半にアルメニア人からナゴルノ・カラバフ自治州の帰属変更を求める声が噴出し、後に独立運動に発展。アゼルバイジャンとの紛争になりました。

ソ連崩壊後も争いは続き、1994年にロシアのサポートを受けたアルメニア人に有利な形で決着。未承認国家「ナゴルノ・カラバフ共和国」が事実上成立。

しばらく膠着状態が続きましたが、2020年に第二次ナゴルノ・カラバフ紛争が勃発。トルコの支援を受けたアゼルバイジャンが勝利し、「ナゴルノ・カラバフ共和国」の領土は大きく縮小しました。

日本でも何かと話題になっているジョージアですが、ここには2つの未承認国家「アブハジア共和国」と「南オセチア共和国」があり、アブハジアには主にアブハズ人、南オセチアには主にオセット人が住んでいます。ソ連時代は共に「グルジア・ソビエト社会主義共和国」に属していました。

ジョージアからの独立をめぐり、1990年代初頭に紛争が勃発。ロシアはアブハジアと南オセチアをサポートし、どちらも未承認国家が事実上成立する形で紛争が終了しました。

2008年にロシアがジョージアを攻撃。原因としてジョージアによる「南オセチア共和国」への軍事侵攻が挙げらていますが、事前にロシアからの挑発行為があったともされています。最終的にロシアの勝利に終わり、ロシアは「南オセチア共和国」「アブハジア共和国」を国家承認しました。

「未承認国家」に透けて見えるロシアの意図

振り返るとチェチェン紛争は別にして、少数民族がつくる「未承認国家」を緩衝地域として利用するロシアの意図が透けて見えます。また「未承認国家」を利用して、母国に影響力を及ぼしています。

一方、「未承認国家」がロシアに盲目的にべったりしているわけでもありません。たとえば5月8日に行われた「南オセチア共和国」大統領選挙ではロシア連邦への編入開始を提案した現職が慎重派野党党首に敗れました。敗北の原因はウクライナ情勢により紛争に巻き込まれたくないという世論とされています。

これからは紛争の原因となる「未承認国家」を注意深く観察する必要があるようです。

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