26歳、独身男性記者が妊婦を体験 1週間、おなかに5kgの重りをつけ続けた生活で分かったこと

山陽新聞社 山陽新聞社

 命を宿して大きくなるおなか。妊娠後期に差しかかると仕事は特にしんどかった―。出産経験のある先輩のこんな一言が気になった。ボクは岡山市に暮らす26歳の独身男性新聞記者。少しでも実際の負担や気持ちを知ることができればと思い立った。腹部に重りをつける疑似体験器具の装着だ。1週間の「妊婦生活」を報告する。

 「マジか」。あまりの重さに声が漏れた。器具全体の重さは約5kg。働く妊婦が産休を取る直前の妊娠32~35週に相当するという。風呂以外は身に着ける覚悟で臨んだが、想像以上に動きにくい。

 早速、自転車に乗って取材へ。腹の膨らみでバランスが取りづらく、立ちこぎができない。ペダルを踏むのも普段より力が必要だった。そんな中、取材相手の女性の気遣いはうれしかった。事情を説明すると「妊婦なんだから座らないと」と声を掛けてくれた。自転車をこいだ疲れと体のだるさで会話に集中できていなかった。

 帰宅後の難関は風呂掃除。前かがみの姿勢で浴槽を洗っていたら、危うく前に転びそうになった。〈こんな調子で1週間も続けられるだろうか〉。早くも泣き言を口にしそうな自分がいた。布団に入ると、おなかが重く寝苦しい。ダメージは増す一方だった。

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 妊婦生活はさまざまな変調との出合いでもあった。おなかの重みで日中は腰痛に悩まされ、目覚めは悪い。それでもできるだけ妊婦に近づこうとした。

 まずは食生活。2日に1度2、3本は空けていた缶ビールを絶ち、飲み物はノンカフェインに切り替えた。食事も栄養バランスを考えた。ある日のメニューは、朝はヨーグルト、昼はサラダ、夜はサバのみそ煮とブロッコリーといった具合だ。

 不思議とストレスにならない。おなかの膨らみが食欲を抑えてくれたのか、別人になった気分だ。ただ仲間との食事会はきつかった。衝動を抑えて乗り切ったが、お酒好きの女性ならこんな場面があるのだろうか。

 就寝中、右脚のふくらはぎがつった。「妊娠後期はこむら返りしやすい」と女性の先輩から聞いていたが、疑似体験中の自分もなるとは。妊婦になりきろうと意識し過ぎたのかもしれない。

 実家で思いもよらぬエピソードも聞けた。母は趣旨を説明すると膨らんだおなかを笑顔でなで、自分が産んだ3人の子の話を始めた。胎児のためにとしっかり食べ、妊娠4カ月ほどまでに体重が10kg増加。難産のリスクがあるとしてその後の食事制限に苦労したという。かしこまって聞く機会がなかっただけに感謝の気持ちが込み上げてきた。もっともっとお母さんたちの経験を知りたいと思った。

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 出産を経験した女性たちのエピソードにはただただ圧倒された。

 子育て支援のNPO法人・まんなか(岡山市)の岡田直子代表理事ら3人から話を聞いた。印象的だったのは食事だ。うどんしか喉を通らない、ファストフードのポテトが無性に食べたくなるなど変化が大きかったと教えてもらった。

 本音も打ち明けてくれた。つわりが重いとき、普段から家事をしない夫に「何もせず、そっとしておいて」と告げたという。下手に触られると余計な仕事が増えるだけだと諦めたらしい。男性の自分が家事をできるようになっていることが将来、妊娠中の妻の支えにつながると感じた。

 今回の疑似体験について、社内の女性は「男性が理解しようと頑張っていることがうれしい」と好意的だった。たった1週間でも風呂掃除や車の運転は危なっかしく、助けてくれる人がいたらと思う場面が多々あると知ることができたのは収穫だった。

 4月に改正育児・介護休業法が施行され、10月には「産後パパ育休(男性版産休)」が創設される。しかし産前からの支援も必要ではないだろうか。

 「妊娠中の妻の体調が悪いので、今日は産休取ります」―。近い将来、男性たちが堂々とそう言える社会であってほしいと強く思った。もちろんボクはその一人でありたい。

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