夜型人間にとって、早起きは三文の損? 朝活などは逆効果、生産性低下と関連 東京医大が8000人分析

竹内 章 竹内 章

朝型人間が夜ふかししたり、夜型人間が早起きしたりすることで仕事の生産性が落ち込むことが、東京医科大学医学部の志村哲祥兼任講師らの研究で明らかになりました。コロナ禍前、ビジネスパーソンの間では朝の時間帯を有効活用する「パワーブレックファスト」や「朝活」などの健全さがしきりに提唱されましたが、夜型人間にはむしろ逆効果だった可能性も。「早起きは三文の損」な人もいるようです。研究成果はSleep Medicine誌に掲載されました。

人間に備わる「体内時計」は朝型/夜型などの個人差があります。朝型の人は体質的に早寝早起きになり、朝から調子が良く、逆に夜型の方は体質的に遅寝遅起きとなり、午後の方が調子が良いという特徴があり、こうした体内時計の傾向は「クロノタイプ」と呼ばれます。また、近年、産業衛生では「プレゼンティズム」と呼ばれる、勤務してはいるものの何らかの不調のために生産性が上がらない現象が、欠勤や休業よりも社会に経済損失になっているとして注目されています。

8000人を分析した

体内時計の傾向によってパフォーマンスの日内変動に大きな差があることは知られており、たとえば身体機能も、朝型のアスリートでは昼の早い時間に、夜型のアスリートでは夜に最も運動機能が高まる時間があります。また、そのリズムに反して、朝型人間が夜勤に頻回に従事したり、あるいは夜型人間が早朝からの勤務を行ったりすると、発がんリスクの上昇や死亡率の上昇など、様々な健康上の問題が生じてくることが知られています。一方、「早起きは三文の得」という言葉のように、早起きが生産性向上に本当に関連するのかどうかは今まで検証されたことがありませんでした。

研究グループは、官公庁やIT企業、金融機関など第3次産業で働き、2017~2019年に調査に協力してデータ利用に同意した8155人の回答を分析し、睡眠スケジュールと生産性の関係を調べました。平均年齢は36.7歳でした。

体内時計の指標としてMSFscという時刻があります。これは、睡眠負債(たまった睡眠不足)がない状態で、自然に眠り自然に起きた時の中間時刻を示します。回答者の平均は4時16分で、回答は正規分布のように散らばっていました。自然なリズムでは0時過ぎに寝て8時頃に起きる人が最も多い一方、1時半以降に寝て9時半以降に起きるような夜型や、逆に22時30分よりも早く寝て6時半以前に起きるような朝型の人も、それぞれ少なくない割合で存在することが分かりました。

分析の結果、遅寝と早起きが仕事の生産性に関係していることが分かりました。午後10時半より前に寝て午前6時半以前に起きる朝型人間は、1時間の遅寝で生産性が0.48パーセント低下がみられました。また起床時間の遅れが生産性に影響していませんでした。一方、午前1時半以降に寝て午前9時半以降に起きる夜型人間は、1時間の早起きで0.26%の低下で、夜型人間の生産性には起床時間だけが影響していていました。

研究で明らかになった早起きで生じる生産性の低下を、OECD(経済協力開発機構)の平均賃金に換算すると年額8000~1万3500円。日割りにした金額は、江戸時代中後期の貨幣価値(1文)の3文にほぼ相当しました。

研究者に聞いた

自己管理の問題とされる早寝早起きですが、生来の体内時計の影響を受けるため、医学的には心掛けだけの問題ではないそうです。志村さんに聞きました。

ー朝型が健康的、夜型は不摂生というイメージを抱いてしまいます

「夜型人間が心身の不調を来しやすいことについては膨大な研究があります。しかし、これは不摂生によって不調をきたすというより、朝型人間に合わせて作れている社会に適合するために無理をして睡眠が悪化し結果的に不調をきたす側面も強いです。」

ー夜型が朝型に変わったり、その逆もあるのでしょうか

「あります。まず、年齢と共に人は朝型化していきます。体内時計は20歳頃の時と比べると50歳の時とでは、同じ人間でもだいたい2時間くらい朝型化します。また、朝に全く光を浴びない、あるいは夜に強い光を常に浴びる、というようなことをすると夜型化します」

ー「夜型傾向があると睡眠が悪化しやすく、睡眠が悪化すると生産性が低下する」とあります。睡眠の悪化とは

「寝付きが悪くなったり、熟睡できなかったり、夜中に何度も起きたり、睡眠時間が減ったり、昼間眠くなったりと、睡眠の質や量に問題が生じることを意味します」

ーただ、夜型傾向と生産性低下は直接は関連していないので、大切なのは良好な睡眠である、と

「睡眠時間を確保すること、そして、睡眠の質を低下させてしまう要因を除去することが重要です。夜にスマホなどディスプレイを見ない、夜遅くにカフェインをとらない、規則的な食事を心がける、などです」

ー志村さん自身はどちらですか

「私は夜型です。睡眠時間を確保できるように通勤時間を極力削減したり、起きたら明るい光を浴びること、夜は部屋をきちんと暗くしたりすることを心がけています」

研究結果が示すのは、無理な早起きは心身および労働生産性に良い影響を与えないということ。健康的な生活を通じて生産性を維持するためには、「夜ふかししない」「無理に早起きしない」「良好な睡眠をとる」ことが重要であることが示されました。

東京医科大学のリリースはこちら→https://team.tokyo-med.ac.jp/omh/news/202203_chronotype/
Sleep Medicine誌の掲載論文はこちら→https://doi.org/10.1016/j.sleep.2022.03.007

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