もしもロシアがウクライナで核兵器を使ったら…世界各地で「核ドミノ現象」 一気に下がる開発・利用へのハードル

治安 太郎 治安 太郎

ロシアによるウクライナ侵略が長期化する様相を示すなか、ここにきて1つ大きな問題が生じている、核問題だ。各国からの軍事的支援も影響してか、ロシア軍による侵攻はプーチン大統領の計画通りに進んでおらず、政治的焦りからか最近では病院や学校など攻撃の無差別化が深刻化し、ウクライナ軍を弱体化させるため小規模の核使用の可能性が取り沙汰されている。

プーチン大統領も核兵器使用を辞さない姿勢を示しているほか、ロシア軍はこれまでチェルノブイリなどウクライナの原子力発電所を攻撃、占拠するなど世界に衝撃を与えている。国連のグテーレス事務総長もかつては考えられなかった核戦争が今や起こり得ると述べるなど、広島・長崎への原爆投下以降、最も緊張が高まっている。

我々日本人が核兵器反対と言うとき、どうしても広島・長崎をイメージするが、当然ながら核兵器使用には広島・長崎レベルの大規模なものから小規模なものまでさまざまなケースが想定される。ウクライナ現政権の崩壊と親ロ的な傀儡政権の樹立を目指すプーチン大統領が、劣勢を覆すために局地的に小規模な核使用に踏み切る可能性は十分にあろう。そして、仮に使用された場合、その被害は使用された地域だけに限定されず、国際政治にも大きな脅威を与えることになるだろう。

まず、米国と軍事的に対立し、対米ではロシアと戦略的共闘を重視する中国の動向だ。中国も抑止強化を目的とした戦略核を保有しているが、ロシアが限定的にも核を使用すればその後の米国の対応を見極め、核の製造をいっそう強化する恐れがある。いずれインド太平洋においては軍事力で中国優勢の環境が到来する可能性が高く、台湾統一や西太平洋での覇権を実現すべく、中国は核を強化することで米軍をさらに威嚇してくるであろう。

そして、この地域では北朝鮮も同様だ。北朝鮮は依然として核ミサイルの強化に努めているが、対米交渉を有利に展開させていくべく、ロシアの核使用によるその後の米国の対応を見極め、核実験などをさらに強化してくる恐れがある。3月に国連総会で採択されたロシア非難決議の際、141カ国が賛成するなか北朝鮮は反対に回ったが(反対したのはロシアや北朝鮮など5カ国のみ)、対米で今後両国が核の分野で協力を強化することも考えられよう。

一方、ロシアによる核使用は中東や南アジアの安全保障環境にも脅威を与える。周知のように、中東では長年イスラエルとイランが強く対立しているが、これによって両国が核開発を強化すれば中東の安全保障環境は急速に悪化することになろう。特に、イランが再び核開発強化に舵を切れば、バイデン政権のイラン核合意復帰は現実味が消え、これまたイランと中東で覇権を争うサウジアラビアが核開発を本格化させる可能性が高い。2018年3月、サウジアラビアのムハンマド皇太子は、核兵器を手に入れたいわけではないとしながらも、もしイランが核爆弾を開発すれば我々もできるだけ早く同じようにするというのは疑いようがないと言及したことがある。

南アジアでも同様にパキスタンとインドが領土問題で長年対立しているが、ロシアによる核使用が現実のものとなれば、核保有国である両国とも核使用へのハードルを下げる恐れがある。パキスタンのカーン首相はロシアがウクライナへ侵攻したその日にロシアを訪問してプーチン大統領と会談し、インドは長年武器輸入でロシアと深い関係にあり、今後両国がロシアと核分野での協力を密かに強化する可能性も排除できない。

いずれにせよ、ロシアによる核使用が現実のものとなってしまえば、これまで国際社会が築いてきた核廃絶の動きに大きな汚点を塗ることになるだけでなく、核へのハードルが下がり、核ドミノ現象が加速する恐れがある。

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