習近平氏が人民解放軍に「戦争準備」を指示した意図は? 「一帯一路」は“経済支援”から“海外派兵”へ

治安 太郎 治安 太郎

現在、ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する様相を示す中、外交・安全保障専門家の間では、中国が今後どう動いてくるかに注目が集まっている。

北京五輪の開会式に合わせる形でプーチン大統領が訪中し、習国家主席と対米で戦略的共闘を確認したが、習氏としてはまさかオリンピックとパラリンピックの間にウクライナへ侵攻することは想定外で、今まさにロシアとの関係で頭を抱えているかもしれない。しかし、ウクライナ侵攻に支持を表明しなくても、中華民族の偉大な復興を掲げる習政権の構想を中長期的に考慮すれば、ロシアとの政治経済的な関係は戦略的に重要となる。欧米諸国を中心にロシアへの世界的な風当たりが強まる中でも、中国がロシアとの経済関係維持・強化を徹底する背景にはそういった事情もある。

そのような中、習氏は3月7日、全国人民代表大会の軍分科会に出席し、「法に基づく軍隊統治は党の新時代の強軍目標実現に向けた必然的な要求だ」との意見を示し、戦争に向けた準備や人民解放軍の海外派兵などに向けた法整備を強化するよう指示したという。近年では台湾有事が大きなトピックとなり、中国軍が台湾に侵攻するのかしないのかという議論が内外で叫ばれているが、我々が肝に銘じておくべきは、これまで習政権は侵攻しないと断言したことは一回もないということだ。米軍に軍事力で勝てるなど中国に有利な環境が整えば、侵攻する可能性が急速に高まるであろう。

上述のように、ロシアによるウクライナ侵攻は中国にとって都合の良い事情ではない。しかし、ウクライナと台湾を比較する議論が国内でもみられる一方、習政権はウクライナと台湾を全く別の次元で考えている可能性が高い。当然ながら、習政権もロシアによるウクライナ侵攻による欧米諸国の対応(軍事支援や経済制裁)を注視しており、それを台湾有事に重ねて米軍の対応能力などを検討しているだろうが、重要なのは、同じ軍事侵攻でも習政権にとって台湾は侵略ではないのである。侵略とは国家が国家を軍で進軍させることであり、そもそもその概念は台湾を外国と位置付けない習政権にはない。

また、人民解放軍の海外派兵強化は、中国が長年進める巨大経済圏構想「一帯一路」の延長線上で考えることができる。すなわち、中国はアジアや中東、アフリカや中南米など多くの途上国へインフラ整備などで経済支援を実施してきたが、今後は治安維持や軍警察強化の名目で人民解放軍を派遣し、政治的な浸食をさらに強める可能性がある。

米国やフランスが、軍をアフガニスタンやイラク・シリア、サヘル地域などから撤退させるにつれ、各地域には軍事的空白地帯が拡大するので、人民解放軍の海外派兵が実現する環境は徐々に整備されつつある。特に、インド太平洋においては、東南アジアのミャンマーやラオス、カンボジアは極めて親中的で、人民解放軍の展開が十分に想定されよう。近年では中国がカンボジア南部にあるカンボジア海軍のリアム基地に建造物などを建設するなど、軍事的な影響力を高めていることに米国や日本などは懸念を強めている。同3カ国で人民解放軍のプレゼンスが強化されれば、東南アジアを巡る安全保障環境は大きく変化することになろう。

今回の指示にあたり、どういった活動が習氏の念頭にあるか具体的なことは明らかではないが、中国は長年、アジア太平洋地域での海洋覇権など対外的影響力の強化に努めている。ロシアがウクライナに侵攻し、ロシアへの経済制裁など世界的な経済混乱が生じているが、日本としては国防や防衛といった概念を超え、中国による軍事行動によってどのような経済安全保障リスクが生じてくるかを今のうちから把握し、被害最小化のため危機管理対策を強化しておく必要がある。

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