個性?コンプレックス?左利きの不便さや苦労 「右利きにこそ知ってほしい」

堤 冬樹 堤 冬樹

 自動改札機のタッチ部分が右側なので面倒。ファミレスのレードル(しずく型のお玉)はスープが入れにくい。筆ペンだと「とめ」や「はね」がうまくいかず、右手を使わざるを得ない…。これらはいずれも、左利きである私の妻が日常生活で不便に感じていること、らしい。右利きの私はまるで意識してこなかったが、こうした道具の扱いや動作など左利きならではの困りごとを共有し、改善を目指す「日本左利き協会」という団体がある。あす2月10日は「02・10(レフト)」の語呂合わせから「左利きグッズの日」―。

 日本左利き協会の発起人で代表を務めるのは、フリーライターの大路(おおじ)直哉さん(54)=滋賀県大津市。圧倒的に「右利き仕様」の社会において、左利きを「最大規模の少数派」と表現。「不便さの解消だけでなく、右利きの人たちと実感の伴った相互理解を深めたい」と思いを込める。

放課後に右手で書く練習

 左利きの大路さんは幼いころ、左手で思うようにハサミを使えなかった体験が利き手に興味を持った原点だという。小学校に入ると、放課後に居残りして右手で書く練習をさせられ、「悪いことをしたわけではないのに」と子どもながらに疑問を抱いた。

 大学時代、勉強で疲れてペンを持ち替えたのがきっかけとなり、再び左手で書くように。20代半ばで過ごした英国では、左利きの人を多く目にしたり、左利きグッズの専門店に通ったりと「自然体でリラックスできた」。帰国後、左利きにまつわる古今東西の文献を渉猟し、社会のまなざしや矯正の歴史、悩みへの回答や便利グッズなどを盛り込んだ書籍を2冊出版した。

 研究活動からしばらく遠ざかっていた2018年、ツイッターで「左利きが集まれる団体があったらいいのに…」とのつぶやきを見つけ、有志で「日本左利き協会」を設立。「これまで得た知識や経験を若い人たちに還元したい」。左利きへの思いに再び火が付いた。

左手で箸「マナー違反ではない」

 コロナ禍の影響もあり、活動はサイトでの情報発信が中心だ。例えば、日本で「左手箸」が不作法とされた根拠について、「子どもには右手で食べるよう教えなさい」とした儒教の「礼記」にたどりつくと指摘。その一方、かつてインタビューした礼儀礼法の大家の「現代の常識からしてみれば、左利きを無理に矯正するなんてむしろ非常識。左利きの人はあるがままに生活してほしい」といった言葉を引き、マナー違反ではないと強調する。

 サイトでは、書道の左利き筆法や利き手テストの説明に加え、左利き用の万年筆や計算機アプリなども紹介している。定期的にツイッターも更新し、「左手で手縫いする時に困るねじれを解消するにはミシン糸を使うといい」との投稿は大きな反響を呼んだ。

 左利きの現状を問うアンケートには、想定を上回る1200人以上から回答が届いた。その結果によると、「左利き」または「両手利き」と回答した人の動作別の左手使用率は、ATMが56%、自動改札機は37%、パソコンのマウスにいたっては12%と非常に低かった。自由記述欄には以下のように、さまざまな意見が寄せられた。

「右利きは骨折しない限り気付かない」届いた大量の意見

 「ハサミなどはもう慣れたので逆に左利き用は使いにくい。多数に合わせないと社会の効率が悪くなるので諦めている」(1956~65年生まれの女性)

 「私が小さい頃にはまだ左利きはみっともないこと、矯正されるべき悪癖だった。書道は右手でうまく書けるわけがなく、半紙に並ぶのは悲惨な文字ばかり。『みっともない』『皆ができることを同じにできない』ことがコンプレックスで、自信を持てない子ども時代だった」(1966~75年生まれの女性)

 「学校での武道の必修化により、左利きは体の使い方などでより難しさを感じやすいと考えられる。利き手によるハンディが生じないよう、指導者は配慮してほしい」(1986~95年生まれの女性)

 「一番身近でユニバーサルな問題。右利きの方は骨折でもしない限り気付くこともない。どんどん啓発してほしい」(1996~2005年生まれの男性)

 「日常生活で不便を感じていても臨機応変に対応し、今では不便に感じることも減った。左利きは大事な個性」(1996~2005年生まれの女性)

「誰にとっても優しい社会に」

 大路さんによると、左利きの割合は国内外問わず約1割とされるが、場面や状況のほか、文化的な圧力による矯正、病気やけがによって使う手が変わることがある。「利き手と言っても、その度合いにはグラデーションがあることを知ってほしい」

 アンケートからもうかがえるように、対人でのあからさまな偏見や矯正は昔に比べて大幅に減ったと実感する。他方で、「コロナ禍の影響もあって機械の自動化や無人化が進む中、設計者に左利きへの配慮が無ければ『サイレントストレス』が増えかねない」と懸念も。

 だからこそ、右利きの人たちへのアプローチが重要だとし、学校での出前授業などを増やしていきたいという。「左利き用のグッズに触れたり、利き手ではない方で過ごしてみたりと、身近な体験を通じて共感力をはぐくめたら。右手と左手で手を取り合い、誰にとっても優しい社会を目指したい」

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