コロナを乗り切れ! 仕事を失った若手俳優を応援する大阪のバー、その取り組みとは

山本 智行 山本 智行

コロナ禍で、予定していた舞台や公演が中止・延期となり、多くの俳優が活躍の場を失っている。特に深刻な打撃を受けているのが若手俳優。そんな彼らをサポートし、仕事と演技の機会を提供しようと昨年12月に大阪・野田にオープンしたのが「Wellness Bar 立葵(たちあおい)」だ。一体、どんなお店なのか。感染症対策を徹底し、のぞいてみた。

一見すると、ちょっとおしゃれなバーという印象。中に入ると左手がカウンターで、その奥にテーブル席が広がっている。ただ「まん防」がスタートしたことで、座席数は大幅に減らされていた。

店の特徴は何と言ってもスタッフのほとんどがタレントや俳優、女優の卵というところ。その多くが大阪市福島区にある総合エンタメ企業「ジャパントータルエンターテインメント」に所属している。

なぜ、このような形態のバーができたのか。背景にあったのは、もちろんコロナ禍の影響だ。役者には歌手やミュージシャンのように印税が入るわけでもなく、公演中止は収入減に直結する。さらに、演技を披露する場所を失うことでモチベーションの低下にもつながりかねない。

今回、バーを開業するにあたって、その言い出しっぺの1人で店長を任されている宮武峻大(みやたけ・たかひろ、27歳)さんが言う。

「コロナ前や、コロナが落ち着いたときには学校のレッスンなどでみんなと会えていましたが、感染が拡大すると交流の場や出会う場所そのものがなくなり、人に会う機会すらなくなった。せめて、このようなお店があればいいのに…と思っていたんです」

さらに、撮影などの仕事は急に声が掛かるケースが多く、役者同士の方が何かと都合がいい。宮武さんも「店の勤務を代わってもらうなど、みんなで助け合いながらやってます」と話してくれた。

その宮武さんは香川県出身。24歳のとき、役者を目指し大阪へ。順調にステップアップし、コロナ前には舞台で主役級を演じるまでになっていたそうだ。香川には少林寺拳法の総本山があることから高校では少林寺拳法部に所属。黒帯の腕前とあって、将来はジャッキー・チェンのようなアクションスターを目指している。

一方、この日、スタッフの1人として働いていたのが大阪・泉南市出身の岩谷愛友星(いわたに・あゆせ、21歳)さん。こちらはトランポリンの国内ジュニアチャンピオンで日本代表に選ばれたこともある。その後はアクロバティックの世界に進み、2019年にはUSJのウオーターサプライズパレードのメンバーの一員として加わっていたという。「K-POPやダンスも好きですが、一番なりたいのはアクション女優」と愛くるしい笑顔をふりまいた。

やがて、お待ちかねのショータイムが始まった。これは出勤しているスタッフが演技を披露する場として、お客さんの前で「5分ほどの寸劇を演じる」もの。今回は岩谷さんが情感を込め、やしきたかじんの大ヒット曲「やっぱ好きやねん!」を朗読してくれた。

お客さんにとってはぜいたくな時間。役者にとっては演技を披露する場であり、実は修業の場にもなっている。というのも客はその演技を評価し、気に入れば500円で購入したバッジをプレゼントする仕組みになっているからだ。いわば”投げ銭”形式。バッジは勲章として、それぞれの左胸につけられ、ひと目見れば分かるようになっている。

「5分でどう演じ、いかに感動してもらうか。ネタを考えるのが難しいけれど、いい勉強になります」と宮武さんが言えば、岩谷さんは「私はいままでアルバイトの経験がなかったんです。だからここで働き、お客さんと接することで、人間観察の勉強にもなり、役柄にもいかせそう」と前向きだった。

所属する若手タレントや俳優の支援活動に尽力している「ジャパントータルエンターテインメント」は2015年に設立され、スクールの運営、プロダクション事業、映画製作などを手掛けている。目指しているのは関西から世界に通用するエンターテイナーの育成。もしかすると近い将来、大阪・野田のバーからスターが誕生するかもしれない。

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