たまにははんなりと 京都・祇園に日本美を現代に甦らせる芸術空間「T.T」オープン

山本 智行 山本 智行

 ニューヨークでも活躍している新進気鋭のデザイナー、高橋大雅さん(26)の世界観がぎっしり詰まった総合芸術空間「T.T」が4日、京都・祇園にオープンし、早くも注目を集めている。大正初期の町屋を改築し、日本庭園、ブティック、ギャラリー、茶寮などを併設している。訪ねてみると、そこは過去と現在、洋の東西がクロスする不思議な場所だった。

 歌舞伎の顔見世興行で賑わう京都・南座から徒歩で5分ほど。花見小路の裏通りの一角に、その建物はあった。総面積は約50平方メートル。風情ある格子戸をくぐると、つくばいをイメージした玄武岩でできた大きなオブジェが迎えてくれ、こちらのスイッチも切り替わったような気持ちになった。

 主宰するデザイナーの高橋大雅さんによると、建物は、いまから100年ほど前の大正時代初期に立てられた町屋を総改築し「日本古来の美意識を新たに甦らせる考古学的空間をイメージした」という。もちろん、ネジやクギは使わず、栗の木や杉の木の古材をいかした伝統的な数寄屋造りとなっている。

 まずは、2階からナビゲートしよう。祇園茶寮「然美」(さび)と名づけられた茶室はカウンター8席。本格的な「茶の湯」を味わうことができ、なんと「茶菓懐石」(5品、5000円、予約制)なるものを楽しむこともできる。もちろん、老舗和菓子司二代目の職人が作り出した菓子と、京都の茶葉を中心とした創作日本茶というぜいたくさだ。

 月替わりとなっており、この日のメニューは「師走」の5品。その中のひとつ、水出しの玉露に昆布をちらした最中をいただくと、渋みと甘み、うま味までがうまく溶け合い、味わい深い和を感じ取ることができた。

 高橋さんは「日本芸術の源流とも言える茶の湯の世界を総合芸術の一部として再現したもの。1階につくばいを置いたのも茶室に入る前に身を清めるためのものです。外国人の方にも言葉では表せないような所作や作法、日本の美意識に触れていただけたらと思います」と話す。

 千利休の茶室をイメージしたというだけあって、なるほど、黒い壁は1枚1枚、紙を墨で塗って貼り付けたもの。天井の明かりも必要最低限でライトが外に出ていないから落ち着いた雰囲気を醸し出しくれる。

 同行したインスタグラマーの加野ひと美さんは「まるで和菓子のアフタヌーンティーですよね。和菓子もウオッカがベースになっていたりして、とても革新的。明かりもいいし、こんな素敵な空間は外国人にも喜ばれそう」と話していた。

 続いて1階へ。ここはブティックとギャラリー、そして日本庭園の3つに分かれている。もともと高橋さんは15歳で渡英。その後はロンドン国際芸術高からセントラル・セント・マーチンズ大に進み、主にファッションを学んだ。

 その間、海外のアンティークディーラーや古美術商を通じて100年以上前の服を収集(その数なんと1000着以上!)していた。これがベースともなり「過去の遺物を蘇らせることで、未来の考古物を発掘する」とのコンセプトのもと、2017年にはニューヨークでブランド「Taiga Takahashi」を立ち上げた。

 さらに、この2021年秋冬シーズンから日本で展開。祇園が国内初の直営店ともなるが、高橋さんは「売るだけの場所では意味がないと思ったので、茶の湯を提案し、このような総合芸術空間をつくることにした」と言う。

 竜安寺の枯山水を思わせる日本庭園にも驚かされた。透明度の高いガラスを使っているので、近くに行くまで仕切りがないと思えるほど。これも高橋さんの世界観のひとつのようで「日本庭園がこの空間作品の着想のスタート。そこからブティック、茶の湯へと思いが膨らんでいった」という。さらに、同じ形の石を積み上げた彫刻アートは高橋さんが手掛けたもので、こちらは「無限」を表しているという。

 もっとも、この構想の発露となったのは昨年5月、帰国した際にコロナ禍によりゴーストタウン化した花見小路を目の当たりにしてしまったこと。「幼いころ、連れて行ってもらった歌舞練場や都をどりの記憶が甦って、原点に返って何かを始めようと思ったんです」と心が動いた。

 自身の世界観を詰め込んだ空間に「衣食住を通じて日本古来の美意識を甦らせ、どのような世代の日本人が訪れても心の奥底に”懐かしさが甦るような場所を提供したかった」と言う。

 今後については「私もここを飛び出して催しをしたいと思っていますし、アーティスト、伝統工芸の方々にはここを使って作品を発信してもらえればと、考えています。千利休がクリエイティブディレクターだったように、自分もそこに重なる部分はある」と視野を広げている。

 確かに、ここに身を置くと芸術作品に触れることでの刺激はもちろんのこと、どこか心が満たされ、穏やかになっていく感覚もあった。

 帰り際「また来たくなりましたね」と同行したインスタグラマーに言われ、ふと我に返った。そうだ。年明け、もう一度京都に来よう。

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