「このハゲ~」騒動の裏に隠された真実とは 選挙と政治のリアル<後編>

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

31日投開票の衆院選、かつて政治の世界に身を置いていた豊田真由子が、選挙と政治のリアルを徹底解説する。今回は後編。選挙中、当選後に実際に受けたいじめや恐怖体験、そして2017年週刊誌に報道され、世間からバッシングを受けた秘書への「このハゲ~」暴言騒動。「生きていることも、今も本当にしんどい」と赤裸々に語った。

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松葉杖をついて早朝の駅に立った3か月

初対面でガン無視されたり、怒鳴られたり、その後もずっと悪評を立てられたり、駅で演説中に石を投げられて流血したり、2012年6月には、階段から突き落とされて骨折したりもしました。それでも、松葉杖をついて、3か月間毎日早朝の駅に立っていました。

でも、逃げ出そうとは全く思いませんでした。むしろ、こんなことに負けちゃいけない、これがまかり通るんだったら、この地域や日本が良くなるわけがない、変えなくちゃいけないと、奮い立ってしまった。政治というのは、そんなちっぽけな正義感が通用する甘い世界じゃないということを、全く分かっていませんでした。本当に世間知らずでした。

今考えると甚だおかしいのですが、たとえどんなことをされても、心の底から、素直に「お願いします。どうか、がんばりますので、応援してください。」と頭を下げ続けていました。プライドなんて気にもなりませんでした。どれだけ不条理であろうと、超えなければならないハードルだと思うから、耐えるわけです。

なぜ、そうまでして??と思われるかもしれませんが、選挙に当選して議員にならなければ、「国のため地元のために働きたい」、「国民の役に立ちたい」という真摯な思いは実現できない。小さい頃からの「目標を達成するためには、なんでもがむしゃらに頑張って超えようとする」という行動形態が、完全に裏目に出たと、今は思います。

当選した後も、いじめや脅迫は続きます。議員となると、実際に政策立案に力を持ちますから、そうすると、今度は、主義・主張の異なる方々も参戦してきて、攻撃が行われます。

式典に出ても、自分だけ挨拶を飛ばされる、ポスターを切り刻まれる、脅迫状や刃物が届く、とか、本当にいろいろありました。2013年5月に自宅近くで発砲事件があったときには、無関係と分かるまで、ご近所の方々を案じつつ、じっとしているしかありませんでした。

それまで政治とは無縁の世界で生きてきた自分には、それはもう、衝撃的なことばかりでした。日々の激務も相まって、精神的にもどんどん追い詰められていきました。生存を脅かされている生き物のように。それでも、まだまだダメだ、もっともっとがんばんなきゃ、と。何も持たない自分は、ゼロから地元の方と築いてきた絆だけがすべてで、毎日毎日それを守ろう、強くしようと、役に立ちたいと、ただただ必死で、国会と地元を駆けずり回っていました。

他党が強くて「自民党候補は勝てない」と長年言われ続けてきた選挙区で、しかも私は、地元と何らの関係もない、支持者どころか、一人の知り合いもいない「落下傘候補」。普通に考えたら、勝てるわけのない状況でした。ひたすら、早朝の駅に立ち、1500枚のポスターを自分であちこちに張らせていただき、毎日何十件もの会合やお祭りに顔を出し、合計で数万軒のお宅やお店を、一軒一軒訪ねて回り、お話を聞いて、政策について説明をし・・・、そうしたど根性の活動で、だんだんと応援してくれる方が増えてきて、二回当選することができましたが、それでも立場の脆さや大きなリスクは、変わらずありました。今の日本は小選挙区制で、その地域の衆議院議員のポストはひとつしかなく、地元の人が「議員になりたい」と思えば、今いる人間を追い出さない限り、絶対に実現できないからです。

私という人間の「息の根」は、止められました

4年前のあの騒動、録音した“秘書”の方は、実は、週刊誌の元記者でありました。仲間の別の“秘書”の、携帯メッセージのやり取りには、豊田真由子の「息の根を止める」、「そのために今、いい子の振りをしている」、「最後に誰も見ていない所で、刺してやる(笑)」と、書かれていました。

そして出版社は、あの音声テープを、多くのメディアへ貸し出すことで、利益を上げたと、報道されていました。

ご計画通りに、政治的にも、社会的にも、そして、人生そのものから、私という人間の「息の根」は、止められました。

事実は小説より奇なり、です。

そして、これからも、見知らぬ方からのネットや実社会での誹謗中傷は、私が「自ら死を選ぶまで」続くでしょう(選んでも、続くのかな)。

それこそ、生きていることも、今も本当にしんどいです。しんどくないわけが、ありません。

「世襲」「有力者の一族」は大きなアドバンテージ

よく「政治の世界は、ヤクザの世界みたいなもの」と言われます。

「組長」になるには、世襲やその世界での長年の積み重ねといった納得感・説得力が、絶対に必要で、その「運営」には、莫大な資金や構成員が必要になるといったことや、権力闘争の苛烈さ、一般社会との隔絶等からしても、例えは当たっているなあと思います。

公認だけではなく、政治の世界で上り詰めていくのも、ポストを巡る権力闘争も、それはそれは苛烈でしょう。まさに「殺るか殺られるか」、もはや現代日本の他の世界では見られなくなった、おどろおどろしい不条理がまかり通ります。利権や金銭との関係というのも、残念ながらきっとたくさんあるのでしょう。そこに巣食う大勢の方たちも、蠢いておられるでしょう。

(念のためですが、ここでは、それらの世界が良いか悪いかといった価値判断をしているわけではなく、事実の比較と分かりやすい例えとして用いているというだけです。)

そういう意味では、改めて、世襲や有力者の一族であるということは、(皮肉や負け惜しみではなく)とてつもなく大きなアドバンテージだと思います。

“地盤(支持基盤)・看板(知名度)・カバン(資金力)”があるから選挙に勝てる(※)、といったことだけでなく、おどろおどろしい、政界に蠢く様々なリスクから守られる、いじめられない、長く一族を支えてきた、地元のことも国会のこともよく分かっているスタッフが大勢いる、請求書を数えながら毎月の支払の心配をしなくて済む――心身を摩耗し尽くす、こうした数多のことから守られ、本来の活動に集中できるということが、政治という特殊な世界で、どれだけ大きなことであるか、その本質を理解せずに、表面的な世襲批判をしても、意味が無いと思います。

(※)日本経済新聞(2021年10月19日)によると、1996年10月に小選挙区比例代表並立制が導入されてから現在までの8回の衆院選の小選挙区候補者、延べ8803人について、世襲候補の勝率は、比例復活当選を含めて80%に達し、一方で、非世襲候補は30%とのこと。

今回の衆院選について「新人や若手、女性の候補者が少ない」「候補者多様化への道は遠い」といった報道がなされますが、いやいやいや、日本の政治システムや、政治の現場の実態から考えたら、それはまさに当然の帰結です。なぜそうなっているのか、政治の世界で生きるのがどれだけしんどいことか、その本質を知り、論じなければ、解決は遠いと、実感として思います。

国民の声なき声に、真摯に耳を傾けて

もちろん、わたくし自身に至らない点も多々ありました。

それに、選挙区によって事情も違うと思いますから、こんなことばかりではないとも思います。

それでもどうか、こんな不条理や、不要で過大な負荷がかかることなく、志ある人が国政で働けるようになるために、政治のリアルを知っていただければと思い、衆院選が話題となっている今、書かせていただきました。

そして、政治というこんなにもしんどい世界で、奮闘を続けるかつての仲間の皆さんと、そして、野党を含めこの国と国民のために必死で働こうと考えていらっしゃるすべての皆さんに、心からのエールを送り、そしてどうか、今この国で苦しむ多くの国民の声なき声に、真摯に耳を傾けていただきたい、と切に願っています。

長文お読みいただき、ありがとうございました。

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