元野犬を迎えて4年目 警戒心の強かった子が…お手やお座りも!「できることが増えると喜びもひとしお」

渡辺 晴子 渡辺 晴子

山口県周南市から麻実さんのおうちにやって来た元野犬の風花(ふうか)ちゃん。3歳の女の子です。家庭犬として育てられて、今年で4年目に入りました。

野犬(やけん、のいぬ)というのは、人が捨てた犬、あるいは迷い犬が野良犬となって山野に生き残り、自然繁殖して野生化した犬のこと。非常に繊細で、人や人が住む環境に対する警戒心が強く家庭犬として慣れるまでには時間が掛かるといわれています。

風花ちゃんも今でも警戒心が強く、人の動きに反応して飛び起きたり逃げたりすることもあるそうですが、お座りやお手をするなど麻実さんの家庭に少しずつ慣れてきたといいます。そんな元野犬の風花ちゃんとの暮らしについて、麻実さんにお話を伺いました。

野犬は「普通の犬とは違う」 引き取った日から数カ月ベッドの下に潜り込み出てこなかった

麻実さんは風花ちゃんを引き取る4カ月前、11年間一緒に暮らした雑種犬を亡くしました。寂しさをまぎらわそうと、亡くなった犬に似た雑種犬をネットで探していたところ、里親募集サイトで野犬の存在を知り、風花ちゃんをおうちに迎えることになったといいます。

「当時4カ月の子犬だった風花。迎える際、保健所から野犬を引き出しボランティアをされている方から『普通の犬とは違います』と聞かされていましたが、実際飼ってみると想像以上でした」と麻実さん。

引き取った日のことを振り返り「家に向かう車の中でキャリーのドアをちょっと開けてみたら、風花は驚いて飛び出してしまい、運転席の下にもぐってしまいました。そこで高速のサービスエリアに駐車して、夫と二人で代わる代わりシートの下に手を突っ込んだりして、なんとか引っ張り出したのですが…怖かったようで夫の胸の上におしっことウンチを漏らしました」と話します。

家に向かう途中の車中で、とても敏感になっていたという風花ちゃん。到着してからも態度は変わらず、麻実さんのおうちに慣れるまで大変な日々が続いたそうです。

「家に着いてからは、夫の寝室でキャリーのドアを開けるやいなや今度はベッドの下に潜り込んでしまい、出てきませんでした。しばらくベッドの下が風花の“隠れ家”となってしまったんです。排泄用にトイレシートを敷き詰めたり、ご飯やお水、おやつ、おもちゃなどを1日5~6回“配達”したりと、私たちも風花に合わせることに努めました」

少しずつ部屋に慣れ、先住犬にくっついて廊下へも出るように

そして数カ月ほど経ってから、風花ちゃんは次第にベッドの下から顔を出すようになりました。

「顔を出すものの、決して触らせず、強い警戒心は変わりませんでした。やがて、年末となりいよいよ部屋の中も寒くなってきたときのこと。暖かいリビングに移動してもらおうとベッドを部屋の外に出し、可動式のサークルを置いて少しずつ部屋全体に慣らしていきました。最終的にはサークル越しにお友だちになっていた先住犬にくっついて部屋から廊下へと出てくるように。そこまでたどり着いたのは、引き取ってから6カ月後のことでした」

室内を自由に動き回ることさえもままならなかったという風花ちゃん。ベッドの下で生活してる間に壁をかじったり、カーペットを掘ったり。さらに、その下の断熱材や床材までも掘り進めてしまったとか。隙間風が入ってくるようになってしまったため、床ごとリフォームしたといいます。

麻実さんたちは風花ちゃんのあらゆる行為を根気強く見守りながら、愛情深く触れ合ってきました。4年目に入った今も風花ちゃんの警戒心の強さは変わらず、人の動きにも敏感に反応するものの、少しずつ麻実さんのおうちに慣れて家庭犬らしくなってきたそうです。

「お座りやお手などをするほか、『ハウス』のコマンドにもちゃんと従います。私が外へ行く準備を始めると『ハウス』といわれる前にケージに自分から入っていき、ドアを閉めるのを待ちます。とても賢いです。食べることも大好きで、今いる4頭の中では一番、台所の滞在時間が長いですね(笑)」

   ◇   ◇

抱っこはできないけど…「手が掛かる分だけかわいさもひとしお」

麻実さんによると、外で暮らしてきた野犬はさまざまな病気にかかっている可能性が高いといいます。風花ちゃんも、おうちに迎えた際は全身アカラスという皮膚病にかかっていたり、フィラリアも強陽性だったり、さらにはカエルやヘビを食することで感染する「マンソン裂頭条虫」という線虫もいたそうです。麻実さんは「全て投薬で治療できましたが、野犬の置かれている過酷な環境を思い知らされました」と話します。

また、風花ちゃんを動物病院に連れて行く際、今でも車中でおしっこやウンチを漏らしてしまうとか。

「車に乗せるときはクレートに入れますが、やはり緊張して漏らしてしまいます。病院の診察室では、ふたを外したクレートの中で診察を受けることもありますが、たいていは飛び出して診察室の中を逃げ回ります。ただ、先生たちは慣れていらっしゃるようで、隅っこに隠れた風花をそのまま診察してくださいます。

なかなか人慣れしない風花。生後4カ月くらいで我が家に来たものの、いまだに私しか触れません。触れるといってもお手や、頭・お尻などをなでさせてくれるくらいで、抱っこはできません。夫に至ってはいまだにご飯のときにコンマ1秒のお手をしてもらえるくらいです(笑)」

これから野犬をおうちに迎えることを検討されている人に向けて、麻実さんはこう訴えます。

「風花しか経験がないので他の野犬についてはわかりませんが…どの子も人間との接触がないまま育つわけですから、人や新しい環境に慣れるまでに相当な時間が掛かる点は共通しているだろうと思います。ですが、手が掛かる分だけかわいさもひとしおです。あらゆる物や音にびっくりして逃げまどうので、お子さんが独立して夫婦二人になった静かなご家庭や、年齢層高めのご家族など、焦らず成長を見守ってあげられるおうちに向いていると思います。

大変ですが、少しずつ苦手を克服し、できることが増えていく様子が見られるのはそれを補ってあまりある喜びです。これから里子を迎える方はぜひ全国で保護されている野犬にもチャンスを与えてもらえたらと思います」

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