新疆ウイグル自治区の綿花 日本企業で広がる調達見直し 複雑化する「人権リスク」で取引自制

治安 太郎 治安 太郎

最近共同通信が報道したところによると、新疆ウイグル自治区で生産された綿花を巡り、日本のアパレルやスポーツ関連企業18社のうち13社が同綿花の調達見直しを検討していることが明らかになった。18社のうち3社は既に使用を停止し、5社が今後中止にする、1社が一時停止、4社が使用量を減らす、5社が使用継続と回答したという。具体的な社名は明記されていないが、報道されている限り、ミズノやカゴメ、ワールドといった企業はウイグル産綿花やトマトの使用停止を発表している。

人権問題を重視するバイデン政権が発足して以降、米中では新疆ウイグルの人権問題を巡り対立が激しくなるだけでなく、欧州やカナダ、オーストラリアなどもこの問題で米国に同調しており、構図はより複雑化している。

米国と英国、カナダなどは3月、中国が新疆ウイグル自治区で人権弾圧を続けているとして、関係当局者たちへの制裁を発動したが、それ以降、H&Mやナイキなど欧米企業は新疆ウイグル産の綿花を使用しないなどと発表し、中国のネット上では不買運動が広がり大きな問題となった。そして、その影響は日系企業にも及び、たとえば、ユニクロを巡っては5月上旬、ユニクロの男性用シャツがウイグル産綿花で製造されているとして今年1月から米国への輸入が差し止めされていることが明らかとなり、3月にはユニクロのフランス法人がウイグルでの強制労働や人道に対する罪を隠匿している疑いで現地NGOなどから刑事告発された。

今日、ウイグル問題で新たな火花が散っているわけではないが、状況は依然として不透明な情勢である。上述の調査結果のように、使用停止や使用量の減少に打って出る企業が増加傾向にあるのは自然な流れだ。企業関係者たちの本音としては、質が良いウイグル産綿花を使用し続けたいのが本音であろうが、米中対立という政治リスクに直面しており、リスクによる被害を最小化せざるを得ないという想いであろう。使用継続している企業の中からも、今後停止や減少に踏み切る企業も出てくるかも知れない。一方、完全に使用停止を停止すれば、H&Mやナイキのように中国国内で不買運動に遭う恐れもあり、関係企業にとっては非常に難しい問題である。

しかし、今後の情勢を考慮すれば、ウイグル問題を巡って日系企業はさらに難しい局面に陥る可能性が十分にある。現在の中国と欧米諸国との対立は一向に改善する兆しは見えず、むしろ、バイデン政権によるクアッドや新たな安全保障枠組みオーカスによって対立は先鋭化している。だが、今日の国際情勢ではどの国も軍事的なリスクは避けたいことから、その対立は経済領域で繰り広げられることになる。中国は6月、ウイグル人権問題などが原因で欧米が中国に制裁を発動する中、外国が中国に経済制裁などを発動した際に報復することを可能にする「反外国制裁法」を可決した。今後、再びこの問題を巡って双方の制裁合戦が激しくなった場合、習政権は反外国制裁法に基づいて強硬な行動を取ってくることが考えられる。反外国制裁法は、第三国も制裁対象となる。

日本では岸田政権が本格的に動き出す。岸田氏は人権問題担当の首相補佐官を置く姿勢を示しており、バイデン政権と人権問題で関係を密にする可能性があり、ウイグル人権問題はその政治的影響を受ける可能性がある。企業は今以上にウイグル人権の動向を注視する必要がある。

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