「餌やりをしていた野良猫が、隣の家の車を傷つけた」…これって弁償しないといけないの?

猫・ペットの法律相談

石井 一旭 石井 一旭

餌やりをしていた野良猫が引き起こしたトラブルについて相談がありました。ペットに関する法律問題を取り扱っているあさひ法律事務所・代表弁護士の石井一旭氏が解説します。

【相談】Aさんが庭にやってくる野良猫に餌をあげていたところ、隣の家から「お宅がいつも餌をあげている猫が、うちの家の車を傷つけた。弁償してほしい」と言われました。隣の家の人からは「餌をあげて可愛がっているのであれば、猫を飼っているのと同じで、責任が発生するのではないか」と言われて困っています。Aさんは車の修理代を弁償しなければならないでしょうか。

単に餌をあげていただけなら、賠償する責任はありません

他人の物を傷つけるなど、他人に損害を与えた場合は、「不法行為責任」として、その行為によって発生した損害を賠償する責任を負います。

民法718条は、「動物の占有者(及び、占有者に代わって動物を管理する者)は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。」と定めています。

飼っているペットが他人の車を傷つけた場合、飼主は、この条文を根拠として、原則的に賠償責任を負うことになります。

もっとも、本件の場合はペットが主体ではなく、庭で餌をあげている野良猫が問題を起こした点が特殊です。このような場合、餌をやっていた人はペットの場合と同様の責任を負うのでしょうか。

民法718条をもう一度見てみると、主語が「動物の占有者」または「占有者に代わって動物を管理する者」となっています。ここでいう占有者とは、動物を客観的に事実上支配している人物のことで、通常は飼主を指します。また「占有者に代わって動物を管理する者」とは、動物を預かっている人や散歩を引き受けた人などを指します。

つまり、動物を制御(しつけ)できる立場の人が、その動物の管理ミス(しつけミス)によって発生した損害を賠償するべきだ、という考え方に基づく規定です。「子供の不始末は親の責任」というようなものですね。

そうすると、単に野良猫に餌を与えていただけで、餌のとき以外は自由にさせていたのであれば、その野良猫を事実上支配していたとも、管理していたとも言い難いため、民法718条の主体に該当せず、責任は負担しないと考えるのが素直です。

一方で、猫に餌付けをしていた人が責任を負うかどうかについて争われたケースでは、「餌やり」に加えて「住みかを提供」していた事情があったことから、「野良猫を飼育していた」ものとして、餌付け主の責任を肯定している事例があります(東京地方裁判所立川支部平成22年5月13日事件)。

同様に、野良猫を去勢した上で地域に住まわせその命をつなぐ「地域猫活動」で、活動の対象となっている野良猫から被害を受けたからといって、活動している個人や団体に賠償を求めることも「占有」も「管理」もされていない状況では難しいと考えるべきでしょう。(もちろん、その個人や団体の世話の仕方によっては、「占有」ないし「管理」があったとして、賠償責任を負うこともありうると思います)

なお、これがふん害や悪臭などの生活環境問題であった場合は、「野良猫に餌を与えること」自体が生活環境悪化を引き起こしたと、社会通念上「因果関係」が想定できるため、不法行為だとして賠償責任を負担することになる可能性もあります。

最近では「不適切な猫への餌やり」を禁止する条例が各地の自治体で制定されており、例えば京都市では「市民等は,所有者等のない動物に対して給餌を行うときは,適切な方法により行うこととし,周辺の住民の生活環境に悪影響を及ぼすような給餌を行ってはならない」とされています。ただ、何が不適切なのかは、本来その条例を制定する主体が基準を定めるべきなのですが、京都市ではその基準は策定されていないようで、もっぱら市民の良識に委ねられている格好です。

餌やりについては、生活環境悪化を招かないため、食べ残しをちゃんと処分することや、野良猫の去勢など餌やりによる自然増加を防ぐ方策も並行して進める必要があるでしょう。

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※この記事における解説は、ひとつの見解であり、必ずしもすべてのケースに当てはまるものではなく、個別具体的な紛争の解決を保証するものではありません。ご了承ください。

◆石井 一旭(いしい・かずあき)京都市内に事務所を構えるあさひ法律事務所代表弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。

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