遠い未来、織女星が北極星になる?二星聚会神話に浸れる美しい晩夏の星空

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夏の星空は、美しさが讃えられる冬と比べ、相対的に夜が短く湿度も高いため空の透明度が低くなりがちなのですが、実は冬にはない美しさを見せてくれる季節でもあります。
東の空から立ち上る天球の大河・天の川が雄大な姿を見せ、その両岸と川中に位置どる「夏の大三角」を中心に、その周辺の星々の競演が見どころになります。

美しい夏の夜空。名作「銀河鉄道の夜」も晩夏の物語です


夏と冬、春と秋の星空の違いとは?なぜ違いが出るのでしょう

地球の地軸(自転軸。串だんごの串にあたる北極と南極を貫く中心軸)は、公転軌道に対してまっすぐ垂直ではなく約23.4度傾いており、それによって地球の温帯・寒帯域には四季が生じます。言うまでもなく、太陽が出ている日中でも、太陽光にかき消されて見えてはいませんが、空には星々が存在しています。夏と冬、春と秋はそれぞれ太陽を中心にして対極に位置するので、冬の昼間の見えない星空が、夏の夜の星空になります(逆に夏の昼間に出ている見えない星空が冬の夜の星空)。
地球を含む太陽系は、「銀河系(または天の川銀河 The Galaxy)」と呼ばれる2,000億個の星の集団に属しています。銀河系はかつては中心星団「バルジ」が球状をしたアンドロメダ星雲のような円盤状の渦巻き星雲と考えられていましたが、近年の観測により中心のバルジがソーセージ状に長い形状をしていて、この棒状バルジから複数の「腕」が出て渦を巻く棒渦状銀河だと考えられるようになっています。さしずめイカが長い手足を円盤形にひろげて回旋しているような形といったところでしょうか(観測する地球自体が銀河の中にあるので、家の中にいる人が家の外観を観察できないように、内側から外の形状を推測するしかありません)。銀河系の直径はおよそ10万光年。太陽系は中心のイカの胴体から離れたスパイラルアーム(渦状腕)の一つであるオリオン腕の中にあり、かつては中心からは3億光年以上離れていると考えられていましたがそれも修正され、2億光年内の範囲に位置するとされます。北半球が夏になる時期に、地球は太陽より銀河系の中心のバルジ側に回るので、夜に銀河の中心部分を見ることになります。このため、夏の銀河は太く雄大で、見事な姿を見せるのです。逆に冬には地球は太陽よりも銀河系の外側に回るため、夜空に見えるのは太陽系が属するオリオン腕のみとなり、銀河は夏よりずっと細く控えめなわけです。

アンドロメダ銀河。かつて銀河系はこのような姿だとされてきましたが…


天の川がもっとも美しい季節の七日夜。七夕の季節設定には意味があった

夏から初秋にかけての星空の主役は、なんと言っても上記の天の川とそこにかかる、はくちょう座デネブ、わし座アルタイル、こと座ベガで形成される夏の大三角で、このうちのアルタイルとベガは牽牛(彦星)と織姫(織女)にあたり、旧暦の七夕=七月七日は晩夏から初秋で、両星が天頂高くに輝く絶好の鑑賞期となります(ちなみに今年の旧暦七月七日は、新暦の8月14日)。
旧暦は月の満ち欠けで成立しますから、七日の夜は七日月と呼ばれる半月で、かつ上弦の月。
上弦の月は、昼頃に東の空に昇り、夕方頃に南中、そして真夜中に西の空から沈んでいきます。一方、下弦の月は、真夜中に東の空に昇り、明け方頃に南中、そして昼頃に西の空へ沈んでいきます。
ですから、上弦の月にあたる七日夜の七夕には、天頂高くに立ち上る天の川の両岸の織女星と牽牛星が、月の光に妨げられることなく、夜通し見ることができるのです。
夏の夜空では宵の口には星空の目印となる北斗七星が北西低くにまで移動しており、目立ちません。北東付近に位置するW型のカシオペア座を目印にすると、そこから東側の天頂付近に、はくちょう座のデネブを見つけることができます。そこからさらに上にこと座のベガ、西側にわし座のアルタイルの「夏の大三角」を見つけることができるでしょう。さらに西の空に目を転じると、さそり座のアンタレス、おとめ座のスピカ、うしかい座のアルクトゥルスが輝いています。また、明け方近くには東の地平線から、オリオン座がぬっとあらわれ、秋、冬への移り変わりの兆しを見せてくれるでしょう。

天の川に輝く夏の大三角(デネブ・アルタイル・ベガ)


遠い将来、織女星が北極星に?どうしてそうなるの?

さて、「太陽が黄道上を移動」とか「惑星が逆行」とか、天体の話題で当たり前のように書かれていますが、もしかしたら多くの人にはよくわかりにくいことかもしれません。
これは、地動説に基づく太陽系モデルの刷り込みが、地上で観察できる見かけ上の天体の動きと齟齬があるため、というのが大きいのですが、それと同じく、あるいはそれ以上にややこしくしているのが、天体の動きにはいくつものタームの運動があり、それらは幾層にも重なりながら同時進行しているからだ、ということにあるのではないでしょうか。
たとえば太陽で見てみましょう。
太陽は日々、東から昇り、南天を移動(南半球では北天を)移動し、西に沈みます。「太陽の動き(運動)」と言ってまず思い浮かべるのはこの運動です。太陽だけではなく、月や天球の星々も、東から昇り、西に移動していきます。
これを日周運動と言います。地球が自転して一回転する(=1日)ことによって、天体が移動しているわけです。
しかし地球は、自転だけではなく、太陽の周りを1年かけて公転もしています。ですから、公転による地球の宇宙空間の位置移動により、天体もまた1年かけて移動をします。これを年周運動と言います。地球から見ると太陽は年周運動により天球上を一周し、これを黄道と言うのですが、この移動を観測するためには、日々の同一時の太陽の位置を観測し、その背後にある天球の星座/星空を確認することが必要です。特殊なカメラを用いれば、日中時でも太陽の背後の星空を見ることはできますが、一般的には、たとえば太陽の南中(太陽が観測者から見て真南になる瞬間)の時刻を記録し、12時間後の夜にその位置にある星空を確認し、星図でその星空の180度の対角線にある星空を見れば知ることができます。こうして見ますと、太陽は、黄道上を西から東へと(日周運動とは真逆に)、1か月に約30度ずつ移動している、ということになります。
そして最後に、もっとも長い星空の回転周期に、地球地軸の歳差運動周期があります。地球には黄道周期に太陽や月などからの引力による自転への干渉作用があり、地軸が一定ではなく、ぶれながら回るコマのように、地軸が揺れています。このわずかな地軸のずれ運動を天球にまで延ばして投影したものが「天の軸」で、この天の軸と天球が交差する箇所にもっとも近い星が「北極星」です。歳差運動は25,722年かけて一周します。
この三つの周期運動が絡み合うために、天体の運動は文字や略図で説明しようとすると非常にわかりにくくなってしまうのです。理解するためには毎日実地で観察するしかないかもしれません。

天の北極を中心に円を描く北天の星々

歳差運動についてですが、太陽の天球上の年周運動の起点である春分点を少しずつ西にずらし続けており、占星術が生まれた時代は春分点がおうし座にあったのに、現在では、おひつじ座、うお座を経て、みずがめ座に移行しつつあると言われています。
歳差運動によって北極星の位置も少しずつ移動するため、天空の中心(天の軸)にあってほとんど同じ位置で動かない北極星が、現在のこぐま座α星から、およそ1万1千年後の西暦131世紀(AD13,000年)ごろには、こと座のベガすなわち織女星が北極星となると言われています。逆に言うと、今から1万年以上前の人類の黎明期には、北極星がベガだったわけです。七夕の神話というのは、もしかしたその遠い昔に形成され受け継がれた伝説だったのかもしれません。ちなみに今から5,000年ほど前は、りゅう座α星が北極星でした。その頃の時代、世界各地に竜やドラゴンの信仰が盛んだったのも、竜が天帝や皇帝のシンボルだったのも、それと決して無関係ではないでしょう。
ベガが北極星となる時代、そのとき地上は一体どんな世界なのでしょうか。そんなはるかな空想をはせられるのも、星空を眺める楽しさです。

(参考・参照)
星空図鑑 藤井旭(ポプラ社)
星空への旅-地球から見た天体の行動- エリザベート・ムルデル 市村温司 訳(みくに出版)

夏の星空では、カシオペア座を目印にすると星が見つけやすいでしょう

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