男が編み物をするのは「キモい」のか? ジェンダーバイアスに苦しんだ男子学生が伝えたいこと

青島 ほなみ 青島 ほなみ

「僕がどんな想いで編んでいるのか知らないのに」

そう悲痛な叫びを投稿したのは、文化服装学院ニットデザイン科に在籍するTwitterユーザーのまーさん(@knit_Masa)。カフェで編み物をしていたところ、高校生らしき男性が「男が編み物してるよ。キモ」と話すのを耳にしたといいます。

「ものを作るのに性別や歳は関係ない」「人生で始めて差別的な言葉を言われました」と、胸の内を明かすまーさんの投稿にTwitter上では大きな反響が起こっています。

女らしさ、男らしさといった「ジェンダーバイアス」が社会的に関心を集める中、まーさんが思う差別や偏見の解消について聞いてみました。

青島ほなみ(以下「青島」):まーさんが編み物を始められたきっかけを教えてください。

まーさん:編み物に初めて触れたのは、小学2年生の時でした。母が編み物をしているのを見て、自分も「やりたい」と思いかぎ針を教えてもらいました。

それから少しずつ編み物をするようになり、高校生の時には親友にお揃いのアラン模様のセーターを編みました。その時、セーターをもらった彼も、作った僕もお互いに幸せな気持ちになったことをよく覚えています。それを機に編み物を極めようと、現在は文化服装学院ニットデザイン科でニットを学んでいます。

青島:今回の投稿に多くのコメントが寄せられていましたが、印象に残ったものはありましたか?

まーさん:まず、編み物作家の広瀬光治さんからメッセージがきたのは驚きでした。日常生活を送るだけではお話しすることができないような方からお声をいただけることは、TwitterなどのSNSのすごいところだなと純粋に思いました。

また、僕にとって普通のことになりつつあった「編む」ということに対して、「編み物ができるなんて手先が器用なんですね!」という声や、「長い時間編み続けられる集中力がすごい!」というメッセージをいただいて、編み物を編む自分の特殊性に気づかされました。それと同時に、僕は編み物を含めた手芸という存在が誰にでも身近なものだと考えていたのですが、今回メッセージをくださった人の中には、編み物を「すごいこと」「難しいこと」として捉えている方もいて、少し意外に思い、寂しい気がしました。僕は編み物に限らず、「ものづくり」はすごく楽しいことだと感じています。自分の手から新しいものができる喜び、時間をかけて作ったものが形になる過程で感じる奥深さを、より多くの人に知ってもらいたいと思いました。

青島:今回遭遇した、ニットを編むことへの差別や偏見に対してどう感じましたか?

まーさん:今まで、手芸をやっている女性はいても男性がやるのは珍しいことなんだなと感じていました。実際、僕の周りで編み物をやっている人は女性が多かったですし、現在所属しているニットデザイン科は8割が女性です。しかし、今回の件を経験するまで差別的なことを言われたことはありませんでした。むしろ、「編み物しているなんて素敵ですね」など、肯定的な言葉を受け取ることの方が多かったです。なので、「男が編み物をやってる、キモ」と言われたとき、最初は「そう感じる人もいるんだぁ〜」とぼんやりと思うだけでした。しかし家に帰って、自分の中でもう一度その言葉を思い出した時、涙が溢れてきて自分が傷ついていたことに気がつきました。

青島:このような差別・偏見を無くすには、どうすれば良いと思いますか?

まーさん:「こうでなくてはいけない」というフィルターは「生き辛さ」につながると思います。僕は幸せについて考える時に、その人が「生きやすい」というのが大切だと考えています。「男性が編み物をするのは変だ」「女性が家事をやるものだ」というような「男はこう、女はこう」というフィルターを取っ払って、その人がその人らしく、幸せに生きる選択を互いに応援できる世界になって欲しいと強く願います。僕にとって編み物がそうであったように、好きなことを好きなようにできることが「生きやすさ」につながるのではないでしょうか。辛いこと、困難なことは協力して乗り越えていくこと「生き辛さ」を解消することにつながるのではないでしょうか。

僕も含めてみんなが、見えない「フィルター」を持って世界を見ています。時に見えないその「フィルター」の存在を、意識することが大切だと思います。今回でいうと、僕にあの言葉を投げかけてきた高校生たちが、「フィルター」を取り除いて見る世界は違った色で彩られており、もっと自由であることを知って欲しいと願います。

   ◇   ◇

作品を作るだけでなく、編み物を通して出会いや繋がりを創っていきたいと夢を話すまーさん。性別関係なく想いを持つ人が活躍し、偏見なく応援される社会になってほしいですね。

まーさんの素敵な作品は、Twitterで見ることができます。皆さんも是非、チェックしてみて下さい。

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