遊郭建築の風情を残す料亭「鯛よし百番」が深刻な経年劣化でSOS!クラファンで支援求める

黒川 裕生 黒川 裕生

妖しく艶やかな遊郭建築の風情を今に伝える貴重な文化財としても知られる大阪・飛田新地の料亭「鯛よし百番」が、建物の保存・修復を目的としたクラウドファンディング(CF)に取り組んでいる。建物は国の登録有形文化財にも指定されているが、築後およそ100年が経過した今、内装や外装、建物の基礎は著しく劣化。しかし新型コロナウイルス禍で料亭の売り上げが激減し、修復費用を捻出することが難しい状況に陥っているのだ。関係者は「大切な文化遺産を守るために力を貸していただきたい」と呼び掛ける。

近代遊郭の文化的景観を伝える貴重な存在

玄関を入ってすぐ目に入る堂々たる門と襖絵、日光東照宮の陽明門を模した豪勢な待合室、中庭を臨んで架かる反橋…。飛田新地の外れにある木造2階建ての鯛よし百番は、その味わい深い外観もさることながら、内部も桃山時代や江戸時代の社寺建築、さらには数寄屋や書院造など伝統的な和風建築の要素が組み合わされており、それらが渾然一体となって強烈な存在感を放っている。

「写真が語る『百番』と飛田新地」(橋爪紳也・上諸尚美/洋泉社)などによると、建物の正確な竣工年は判明していないが、大正末期から昭和初期の間に完成したとみられる。戦後、遊郭としての機能を維持しながら10年ほどかけて内部の大改修が施され、現在のような形になったらしい。

今日日なかなかお目にかかれないタイプの建築物でありながら、普段はすき焼きやちゃんこ鍋、寄せ鍋などを提供する本来の意味での「料亭」として営業。100年前にタイムスリップしたかのような絢爛たる妓楼建築の中で料理を味わえる…そんな唯一無二の“非日常感”が根強い人気を誇っている。

建物の経年劣化、危機的状況に

一方、建物の傷みは年々深刻な状態に。襖絵はあちこち剥がれたり破れたりしており、壁や畳もシミなどが目立つ。外装も同様で、特に2階の欄干の塗装は全体的にボロボロと剥がれている。これまで緊急的な修理が行われたことはあるが、文化財の保存修理というハードルの高さや費用がネックとなり、本格的な修復には踏み切れていなかった。

「古さはここの“味”でもあるが、さすがに傷みが勝ち過ぎている。修繕はずっと懸案事項だった」と明かすのは、鯛よし百番の管理部長を務める三宅一守さん。2年ほど前からようやく保存修理の検討に本腰を入れ始めたが、まさにそのタイミングでコロナ禍が発生。度重なる休業や時短営業によって売り上げが例年の約2割にまで落ち込み、「修繕にお金を回す余裕が全くなくなってしまった」(三宅さん)。とはいえ、もはやこれ以上放置するわけにはいかず、CFを通じて広く協力を求めることにしたという。

CFリターンでは撮影会や見学ツアーも

目標金額は1500万円に設定。まずは早急に手を入れる必要がある建物の基礎部分や雨漏りなどの構造修復のほか、欄干、玄関ドアなど目につきやすい部分を優先して直す。さらに、集まった金額に応じて修復箇所を拡大していく予定で、関係者は「今回のCFを機に、将来的には大規模な改修につなげていければ」と意気込む。

鯛よし百番は通常、食事の予約をしないと建物内に入ることができない上、撮影できる時間や場所も限定的。今回のCFでは寄付のリターンとして、見学ツアーや撮影会のプランが用意されている。さらには長年鯛よし百番の調査研究に取り組んでいる大阪府立大学の橋爪紳也教授(建築史)の講演会、全国の遊郭跡を撮影取材してきた渡辺豪さん(カストリ出版)の講演会に参加できるプランもある。

【CFサイト】https://readyfor.jp/projects/micro-heritage-hyakuban

CFと並行して、ウェブ上では鯛よし百番の内部をVRで公開中。企画を進めてきたサミット不動産(大阪市西成区)の杉浦正彦さんは「この稀有な近代和風建築を後世に残すためにも、まずは関心を持ってもらうところから始めたい」と力を込める。

【VRサイト】https://micro-heritage.jp/hyakuban/

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