「八十八の手間」が8割減で収穫16%増!?AIで水量調整“稲作を変える”ベンチャー企業の挑戦、次は宇宙技術へ

北日本新聞 北日本新聞

 稲作は八十八もの膨大な手間と時間がかかるから漢字で「米」と書く-そんな言葉があるほど、お米作りは大変な作業です。機械化が進み、昔に比べて減ったとはいえ、まだまだ省けない手間がたくさんある中、負担の大きい田んぼの水の水量調節、いわゆる「水管理」を楽にするIT技術が注目を集めています。おいしいお米が作れて、しかも収穫量まで増えるというから、農家だけでなく、消費者にとってもありがたい技術です。機械を水田に設置すれば、農家が使うのはスマートフォン一つだけ。開発元を訪ねました。

雨の日も炎天下でも

 水管理は、田んぼの水量や水温が適切になるよう調節する作業です。特に稲穂を実らす時期の水管理は、お米の味や質を左右します。地球温暖化が進み、連日夏の猛暑に見舞われる近年は、さらに重要性が増しています。農家は水温を20~25度に保つよう雨の日も炎天下の日も毎日水田を回って一枚ずつ水の量を調節しています。

 地味ながらとても手間暇のかかる作業の負担を大幅にカットしてくれるのが、水門の遠隔操作システム「paditch(パディッチ)」です。農業ベンチャーの笑農和(えのわ)(富山県滑川市)が開発しました。下村豪徳社長は「IT農業を通じて農家の悩みに答えたいという思いがありました」と開発を振り返ります。

 パディッチは、A4サイズほどのボックス状の機械で、下部には水門となる金属の板が取り付けられています。水田の脇を流れる用水との境に設置します。センサーも組み込まれ、水の量や水温を専用アプリが入ったスマホで確認することもできます。

家にいながら

 農家は、状況を確認しながら必要に応じてスマホの画面を押すだけで、パディッチの金属板を閉じたり、開いたりすることができます。家でもお出かけ先でもOKで、わざわざ水田を回って水門を操作する必要がありません。

 2017年に発表して以来、徐々に評判が広がり、現在、全国で530台が設置されています。導入した農家からは「深夜や早朝に水田に行かなくて済むようになって大助かり」「センサーの精度が高いので、若い農家にも受けが良い」との声が寄せられています。設置した水田の手間や時間が8割減り、コメの収穫量は16.4%アップしたという実績も上がっています。

 下村社長自身が米農家の長男で、幼いころから稲作の苦労を体感してきました。「重労働で休めない、明るい未来が見えない」との思いからIT企業に就職。エンジニアとして力を付けていく中で、「ITの技術で農家の負担を減らせないか」と思いが強まり、笑農和を立ち上げました。農家が一番負担に感じている水田の水管理に着目したことから生まれたのがパディッチです。

宇宙技術の活用も

 5月には、技術をさらに発展させようと、宇宙技術を活用した実証実験をスタートさせました。宇宙航空研究開発機構(JAXA)発のベンチャー企業などと共同で取り組んでいます。地球観測衛星で水田の水温を把握するとともに気象変化も予測し、よりきめ細かい水管理をしようという試みです。収穫したお米は「宇宙ビッグデータ米」と銘打ち、米卸大手の神明(東京)がテスト販売する予定です。

 後継者不足という課題を抱える農業だけに下村社長は「科学的な農業の普及で若い人にももっと目を向けてもらい、100年後もおいしいお米を食べられる未来につなげたい」と話しています。

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