たまたま紙に残した型が役に立った 京都のお寺の焼損した荒神さま、奇跡の修復

浅井 佳穂 浅井 佳穂

 京都市上京区千本通上立売上ルの瑞雲(ずいうん)院の所蔵で、2016年5月の火事で焼損した木像「三股三宝荒神(みつまたさんぼうこうじん)像」が修復された。焼け残ったのは一部だったが、火事以前に荒神像を預かった仏師がたまたま型を残していたことが幸いし、元の姿で寺に戻された。住職や仏師は「不思議なご縁が重なったおかげ」と像の帰還を喜ぶ。

 瑞雲院は、「児(ちご)如来」の通称を持つ本尊や、江戸時代の絵師横山華山の墓があることで知られる浄土宗寺院。荒神像は、高山寺(右京区)を開いた明恵の命によって鎌倉時代前期に作られたとされる。当初、愛宕山(同)山中に祭られていたが、江戸時代前期に上京の寺に移され、明治の神仏分離で瑞雲院に安置された。瑞雲院では境内南部のお堂に火伏せの神として祭られ、毎年節分にはお札を求める参拝者が多く訪れた。

 16年の火災では、1931年建築のお堂が全焼。志水智則住職(34)が焼け跡に行くと、荒神像の手は失われたものの、顔や胴、足などの一部はかろうじて残っていた。さらに、胎内からは荒神像が江戸時代にも火災に遭ったことを伝える文書が見つかった。

 志水住職は、約800年の歴史を有するとされる像を焼損させたことに意気消沈していたが、先人も火災に遭い修復させていたことを知り、信仰を次代に受け継ごうと決意。2014年に像を修理した仏師で僧侶の前田昌宏さん(48)=右京区=に相談した。

 幸いにも、前田さんは修理を手掛けた際、模造紙に荒神像の型を写し、像の写真も撮影していた。今回の修復では、その型などを活用することで外観をほぼ元通りにし、内部には焼け残った部位を収めた。

 5年を経て今春に修復が完了した荒神像は高さ約80センチ。顔や手足などは赤、衣は青や金などで鮮やかに彩られている。現在は本堂に仮安置されている。

 前田さんは「通常の修復では型を取らないが、たまたま残した型がお役に立った。地域の方が手を合わせられるようになって仏師として良かった」と話す。志水住職は「こうしてお寺で再び祭ることができた。来年の節分には再びお札を授与したい」と意気込む。

 参拝には事前申し込みが必要。

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