息子に会えるのは最後かもしれない 母はホテル療養に向かう息子を「行ってらっしゃい」と見送った

渡辺 陽 渡辺 陽

新型コロナウイルスの新規感染者が4月13日から6日連続で1000人超を記録し、緊急事態宣言の発出を国に要請することを決めるなど、危機的な状況が続く大阪府で、Yさんは20代の息子と80代の母親の3人で暮らしています。日頃から感染予防には気をつけていたのに、ある日、息子の感染が判明。ホテル療養に向かう息子と「会えるのはこれが最後かも」と覚悟して別れたというYさん。だからこそ、ニュースなどで今も無防備に飲み会などを楽しんでいる人を見ると、腹立たしく思うそうです。

まさか自分の息子が…

Yさんの息子は、放課後デイサービスを行うNPO法人に勤務していて、土曜日は別の障がい者施設でアルバイトをしています。クラスター発生を予防するため、職員は定期的にPCR検査を受けていたのですが、今月1日、Yさんに息子から「陽性反応が出た」という連絡がありました。

「いつ、誰が感染してもおかしくないと思ってはいましたが、まさか自分の息子が…と驚きました」とYさん。

全く無症状だったため、本人もYさんも気づかなかったといい、「何度か少数の友人と外食はしていましたが、その友人も感染しておらず、特に心当たりはないそうです」と話します。

ホテルに空室がなく自宅療養

Yさん親子3人は、賃貸住宅で一緒に暮らしています。Yさんには持病があり、母は高齢なので、本来ならすぐにでもホテル療養となるはずでしたが、空室がないためしばらく自宅療養することになりました。

Yさんと母は翌2日、保健所に行ってPCR検査を受けましたが、2人とも陰性でした。ただ、濃厚接触者だったので2週間外出できなくなり、アルコールや食料品など必要なものは親戚に玄関前まで届けてもらいました。家から出られない生活は、息が詰まるようだったといいます。

息子は、Yさんや母とはひとつ部屋を隔てた自室にこもりました。

「頻繁に部屋から出るわけにはいかないので、飲み物は室内にクーラーボックスを置いて入れておきました。食べ物は間の部屋に置き、接触しないように受け渡しをしました。トイレや風呂は共用部分なので、使用するたびにドアノブや水を流すノブ、トイレのスイッチ、便座などの消毒をしました。お風呂に入るのも『入っていいかな』と気遣う息子が不憫で…」

息子は最初こそ無症状でしたが、日が経つにつれて嗅覚が鈍くなり、倦怠感も出てきたそうです。自宅療養を初めて3日後に発熱。38度まで熱が上がりましたが、翌朝には36度台まで下がりました。

息子の自室から、職場の人や接触した友人などに何度も「すみません…」と謝っている声が漏れ聞こえてきて、Yさんは不憫に思ったといいます。一方で、近所の人から母の安否を尋ねられると、相手に他意はなくても、息子の感染が知られたのではないかと後ろめたさも感じたそうです。

最終的に、息子の職場では児童1名、職員2名の陽性が判明しました。

もう二度と会えないかもしれない

自宅療養を始めて数日後の6日朝、ようやく「ホテルが決まった」と保健所から連絡があり、Yさんは移送してくれるタクシーと近所のコンビニで待ち合わせました。人目につきにくい広い場所として選ばれたのがコンビニだったのです。

「もし容体が急変したら、息子に会えるのはこれが最後になるかもしれないと思うと、見送りながら涙が出てきて、『行ってらっしゃい』としか言えませんでした。好き嫌いが多い子なので、ふりかけやお菓子をたくさん持たせました」

幸い、息子は2泊3日で帰ってくることができました。変異株でなく、発症から10日間経過後に発熱がなければ、PCR検査をすることなく退院できるのです。職場の人は「ゆっくりして、来週から出勤したらいい」と言ってくれました。しかし、濃厚接触者のYさんと母は2週間外出できないため、まださらに4日間自宅待機しました。

「息子の嗅覚は完全には戻っていません。味覚はある程度あるのですが、今までおいしいと思っていたものがおいしいと感じられないそうです。仕事を終えた後の倦怠感もあり、『今まで感じたことのない感覚だ』と言っています」

職場の理解もあって仕事には無事に復帰できたものの、陽性判定後1カ月間は朝の体温と症状を専用アプリで報告する義務があり、息子はコロナから完全に解放されたわけではありません。後遺症がいつまで続くのか、それも分かりません。

家族から感染者が出た辛さを味わったYさん。「たくさんの人に迷惑をかけて申し訳ないという気持ちもありますが、だからこそ、こんな状況でも無防備に繁華街や路上で飲み会をしたり、大騒ぎしたりしている人をテレビで見ると腹立たしくなるんです」と憤りを口にします。

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