流線型→車高高く、かっこいい→かわいいデザイン 時代とともに変わる「クルマの形を決める基準」

小嶋 あきら 小嶋 あきら

 馬のいない馬車から箱形へ、そして流線型……。時代と共にクルマの形はどんどん変化してきました。より室内を広く、より空気抵抗を少なく、機能の追求の結果がデザインを生んできました。その流れに最近、また新しい基準が加わりました。現代のクルマの形、変わってきてると感じませんか?

より低く、より滑らかに

 クルマができた当時、その形にはまだ馬車の名残がありました。車輪が大きく背が高く、フロントガラスは垂直に立っていました。時代が進んでエンジンが改良され、スピードが出るようになると、空気抵抗を減らすためとか、カーブで遠心力を受けても不安定にならないようにとか、そういう理由で車高を低くしたいと考えるようになりました。タイヤも改良されて、それまでの大きな車輪は小さく丈夫なホイールになって、ますます車高は低く、現代のクルマに近い形になってきました。

 また乗用車がそんな進化を遂げる一方、トラックは荷物を運ぶため、バスは大勢の人が乗れるようにといった用途に合わた進化をして、それに適した形になっていきました。

 乗用車の中でも、特に運動性を高くしたいスポーツカーなどは、より車高を低く、さらに風洞実験を採り入れたりもして、より流線型に近く進化します。それを突き詰めたレースカーの世界では、空気抵抗を減らすだけでなく、高速で車体が浮き上がらず安定して走れるように、下向きの揚力を発生するウイングなども開発されました。現代のF1やル・マンのレーシングカーのデザインは、そんな研究開発の成果です。

 スポーツカーやレーシングカーで培われた技術は、一般の乗用車にもフィードバックされてきました。空気抵抗が少ないボディは、最高速度を上げるために有効なだけではなく、普通の速度で走っても燃費がよくなります。1985年にモデルチェンジしたトヨタ・セリカのキャッチコピーに「流面形、発見さる」というのがありましたが、より低くより滑らかで空気抵抗が少ない、というのが乗用車の形を決める一つの力としてありました。

軽自動車はまた違った流れ

 一方で、1993年に発売されたスズキ・ワゴンRは、車高を高くしたことで大ヒットしました。軽自動車という日本独自の規格の枠内で、できるだけ室内を広く、快適で、極力スポーティさを犠牲にしない形として「トールワゴン」というカテゴリーを生み出したのです。これは軽自動車としてはもう最適解に近いというか、以降は各メーカーこぞってこの形を採り入れるようになりました。

 軽自動車のカテゴリーでは、主に制限されたボディサイズという要因がその形を決める力になったのですね。また、車高の低さにあまりこだわらなかったのは「一般に乗用車に比べて軽自動車は速度が出ない」という理由もあったのかもしれません。

2005年に生まれた新しい基準

 全体的に低いシルエットに進化していた乗用車ですが、一方でここ十年あまり前からボンネットの高い、なんとなくコロンとしたデザインが増えてきたように感じないでしょうか。

 見方によっては「かわいらしい感じの形」ともいえます。時代が「かっこいい」から「かわいい」を求めるようになったから、というのもあるかもしれません。しかしこれは2005年から導入され始めた「歩行者頭部保護基準」というのがより大きいようです。

 乗用車が人をはねた場合、低い位置にあるバンパーが足をすくい上げる形になって、頭をボンネットで強打することが多いといいます。ボンネットはそんなに丈夫で固いものではないのですが、たいていの乗用車はその真下にすぐエンジンがありますよね。エンジンは強度が必要な部分ですから、とても固い金属の塊です。ボンネットとエンジンの隙間が少ないと、頭を打ったときに危ないです。最近のクルマは、そのショックを吸収するだけの隙間を取るためにボンネットを高くしているのです。

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 このように、時代やニーズに合わせてクルマの形は進化していくのですね。これから先、EV化したり自動運転が普及したりすると、また形は変わっていくのでしょう。古いクルマにノスタルジーを感じる一方、未来のクルマがどんな形になるのか楽しみでもあります。

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