LINEやメールに「、。」じゃなくて「,.」…?句読点の違いにザワつく漫画に共感の声 決まりを調べてみた

竹内 章 竹内 章

横書き日本語文書を入力する時、皆さんが使う句読点は何ですか? 「。」(マル)と「、」(テン)の組み合わせ以外、長く信じて疑わなかった記者ですが、研究者からの返信メールで見かけた「,」(コンマ)「.」(ピリオド)文面から、「,.」「,。」パターンの存在が、最近気になっています。「不勉強だ」のそしりを覚悟で、横書き句読点の現状を調べました。

 きっかけは、「ピリオドがこわかった。結婚前の話です」と題してツイッターに投稿された漫画。作者は単行本「漫画家と異星人」が発売中の漫画家のことり野デス子さんです。数学者の彼から届いたメッセージ「わかった.たい焼き,買ってく.」に違和感がぬぐえない…という展開です。 

なぜ「。」ではなく「.」、「、」ではなく「,」なのはどうして。「見たことない文章で意味が分からなくて怖いの…」と不安にかられる主人公。ピリオドはひょっとして恋の終わりを暗示しているのでは…と読む側は勝手に妄想しますが、「論文を書いたりするときに使うから」「理系の習慣のようなものかな」との彼の説明に胸をなでおろします。このネタが研究者クラスタで話題になったようです。

 

多くの新聞、通信、放送の場合、文章表記は統一性を持たせるため、「記者ハンドブック 新聞用字用語集」に準拠しています。手元の記者ハンドブック(13版)を開くと、句読点は「。」「、」を用いるようと記され、コンマとピリオドには触れていません。一方、記者の長男(高校2年)が使っている「明解 世界史A」(帝国書院)では読点はコンマ。同社によると、これは半世紀以上前の国の「公用文書作成の要領」にならったもので、教科書以外の書籍でも横書きはコンマに統一しています。

公用文書作成の要領は、1952年に当時の官房長官が各省庁の事務次官に通知したもので、「なるべく広い範囲」で左横書きとし、横書きでは句読点にはマルとコンマを使うと定めています。ただ、要領には強制力がなく、テンを使う文書が増えている時代背景を踏まえ、半世紀以上を経た2020年に大きな動きがありました。文化審議会の国語課題小委員会が10月末、一般に広く使われているテンを用いるよう求める中間報告案をまとめました。

 ただコンマ派も皆無ではなく、外務省、法務省、宮内庁、最高裁判所が公式サイトのトップページでコンマを使っています。第一東京弁護士会の杉浦健二弁護士のブログによると、裁判所はコンマを順守しているそうで、裁判書類の提出を求められる弁護士はおのずとパソコンの日本語入力設定をコンマにしていることが多いようです。

 文化庁の担当者は「この要領は中央省庁に対するもので、地方自治体や民間に求めるものではない」と説明します。実際、兵庫県はテンとマルで統一しており、「コンマは数字の桁表記用」(文書課)とのこと、神戸市は句点(マル、ピリオド)と読点(テン、コンマ)の組み合わせに特段の定めはなく、「文書内で混在しなければ問題ない」(業務改革課)そうです。「神戸大学 論文 句読点」で検索すると、論文の作成要領がいくつかヒットしますが、「全角のコンマとピリオドを使用する」「 『、 。』『, 。』『, .』の いずれを用いても構わないが文章全体で統一すること」など学部や教室で要件はさまざまです。

 論文執筆や学会発表など文章作成の機会が多い研究者はどうでしょうか。近畿大学の村山綾准教授(社会心理学)は、ポスドク(博士後研究員)時代は「, .」でしたが、現在は「、 。」を基本にゼミ生にもそれを求めるそうです。「ポスドクのころは論文の内容をチェックしてくださった先生(三浦麻子・大阪大学大学院教授)が『, .』ユーザーだったことが大きいですね」と話します。所属する日本心理学会は、投稿論文の形式を「句点はマル、読点はコンマ」と定めており、それにならいます。「文中にコンマだけでも使っている人に遭遇したら、研究職かなと推測します」と話します。

 3月に発表された文化審議会の国語課題小委員会の最終報告は、「句点はマル、読点はテンを原則とする」としつつ、「横書きでは事情に応じてコンマを用いることもできる。ただし、両者が混在しないよう留意する。学術的・専門的に必要な場合等を除いて、句点にピリオドは用いない」と書き手に委ねる部分も。「原則はあるけど、柔軟に使っても構わないよ」と解釈できそうです。

「みんなちがって、みんないい」(金子みすゞ『私と小鳥と鈴と』の一節から)

以上,句読点の現場からでした.

     ■

ことり野さんのインスタはこちら→ https://www.instagram.com/cotorinocotori/              

ツイッターはこちら→ https://twitter.com/DEATHcotori

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース