暗黒『ボヘミアン・ラプソディ』!?教会放火、殺人、自殺…悪魔メタルの血塗られた実話描いた監督に聞く

石井 隼人 石井 隼人

教会放火!悪魔崇拝!内ゲバ!ブラックメタル黎明期の血塗られた歴史を紐解く『ロード・オブ・カオス』(3月26日公開)は、1980年代後半にノルウェーで結成されたブラックメタルバンドMAYHEMやその仲間たちの明日なき暴走を描いたヘヴィな物語だ。

ショットガン自殺、教会連続放火、殺人といった物騒な出来事はすべて実話という恐ろしい内容だが、そこに「持つ者と持たざる者の悲しみ」というほろ苦さが加わり、ブルータルな音楽史に興味のない層にも訴えるエモーショナルな群像劇に仕上がった。彼らは凶悪なモンスターなどではなかった。ひとかどの人物に憧れた、単なる若者だった…。

監督はMAYHEMの音楽性にも少なからず影響を与えたスウェーデンのバンドBATHORYの元ドラマー、ジョナス・アカーランド。音楽的にも地理的にも近いポジションにいた人物だからこその視点やこだわり、そして祈りが透けてみえる瞬間が多々あり、ピュア過ぎるがゆえにブラックメタルに囚われた若者たちの狂気に虚しさのビートを与えている。

アカーランド監督にとっても、MAYHEMの中心メンバーとその周辺が起こした事件は忘れがたい出来事だった。「数々の事件が公になった時、私はすでにアメリカで映像作家として活動していました。しかし彼らが起こした事件はアメリカでも大きく報道され、私自身も大変なショックを受けました。まさか友人であるEMPERORのファウストが人を殺すなんて…。私の中にシコリを残すと同時に、多くの人々の心の中にもシコリを残しました。そして事件が起きた当時に生まれていない若い世代の中にも事件に興味を持つ人が沢山いることを知り、映画として彼らのことを形に残さねば…と思ったんです」と積年の想いを口にする。

原案になったのは名著『ロード・オブ・カオス 復刊 ブラック・メタルの血塗られた歴史』だが、アカーランド監督は自らのコネクションでMAYHEMメンバーやバンド創設者で殺害されたギタリスト・ユーロニモスの家族と恋人、ショットガン自殺をしたボーカル・デッドの親類を取材した。

「MAYHEMのメンバーにとってはとてもパーソナルな話であり、暗い歴史です。彼らは友人を亡くしたわけですから…。しかし彼らは協力的でした。現ボーカルのアッティラ、そしてベースのネクロブッチャーは私の友人であり、惜しまずサポートをしてくれました。アッティラは撮影現場に毎回顔を出してくれて、レコーディングシーンでは息子さんがアッティラ役を演じてくれました。MAYHEMの協力なくして、この映画は完成しませんでした」とブラックメタルの良心に感謝する。

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