日本のジェンダーギャップ問題を解決するには #ジェンダーギャップ問題#5

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森会長発言が大きな問題になりました。発言を批判し、会長を交代させることだけでは、なんら問題の本質的解決にはなっていない、ということです。我が国に、いまだ深く広く根付いている「ジェンダーギャップ問題」について、その実相と本質、そこに存在する深い溝やバイアス、そして、その解決の方途について、行政・政治・国際社会等でのリアルな経験も踏まえ、数回に分けて、考えてみました。最終回となる今回はこれまで検討してきたことを踏まえ、「では、一体どうすればよいのか?」を考えてみます。

目次
#1 そもそも、ジェンダーギャップとは?
#2 ジェンダーの考え方は、時代によって変わってくる
#3 男性に対するジェンダーバイアスもある
#4 日本の『女性活躍推進』が、うまくいかないのはなぜか?
#5 どの性の人も、どの世代の人も、どんな環境でも、生きていきやすい社会を~時代は変わってきている。希望は大いにある

※なお、LGBTやSOGI(性的指向・性自認)の論点は、極めて重要ですが、今回は取り上げておりません。また、人種差別や少数民族の迫害、ミャンマーや中国、香港等の民主化弾圧、イスラムや途上国における女性差別等々、自由や人権を巡る、深刻で苛烈な問題はたくさんありますが、それらについても、今回は論じる対象としておりません。

では、具体的にどうしていくことが、効果があるのでしょうか。どの環境でも、どの段階でも、どの方でも、できることは、たくさんあります。

価値観を押し付けない

ジェンダーに関する考え方は、世代間ギャップが大きいものですが、人は自分と違う価値観を持っているのだ、ということを理解することが重要かと思います。

私は、厳格な父から「男の子が欲しかった」「女・子どもは下がっていろ」と言われて育ち、なんだかいつも申し訳ない気持ちでいっぱいで、ずっと自己肯定感を持てないままでした。

友人たちは、親族から「まだ結婚しないの」、結婚後は、特に配偶者の親族から「なんで仕事で旧姓を使うんだ」「子どもはまだか」「跡継ぎの男の子を」といった言葉を投げかけられ、つらかったという人がたくさんいます。

職場では、「え、担当者が女性!? 変えてほしい」「取引先の接待に、女性がいたら喜ばれるから、来て」「“女”を使ってポストを取った」「出産や介護をする人は、職場に迷惑をかける」等々、女性たちが経験した不条理について、漫画のようなビックリ話が、普通にいくらでもあります。

そしてまた、「実は男性も大きな重荷を背負っている… #ジェンダーギャップ問題#3」でも述べましたが、「男は、生涯働いて家族を養うべき。弱音を吐いてはならない。」が、どれだけ多くの男性を追い込んできたかを思うと、ジェンダー問題の複雑さと深刻さをしみじみと感じます。

誰しも、長年の人生の価値観や内面の思想までも根本的に変えることは、とても難しいことです。けれど、少なくとも、時代は移り変わってきている、押し付けてはいけないということを、意識して行動することで、個人も社会も変わっていくのではないでしょうか。

もちろんこれは、「男らしい」「女らしい」といった価値観自体を否定するものではありません。どの性の方であれ、ご自身が「男らしくありたい」「女らしくありたい」ということを望み、そう振る舞うことは、もちろん自由であり尊重されるべきことです。ただ、それを、他人はもちろん、身近な家族・親族含め、自分以外の者に押し付けることは適切ではない、ということだと思います。(なお、子どもの価値観の形成は、保護者の言動によって大きく影響を受けるということにも留意が必要です。「女の子だから、この習い事、この服装」「男の子だから、泣いちゃいけない」とか言ってませんか?)

企業の対策には実効性を持たせる 「多様性の尊重」の真の理解を浸透させる

欧米の証券取引所等では、「企業の取締役会に女性やマイノリティを登用すること」を求め、達成できない場合は、理由の説明を求める動きがみられます。そして、大手機関投資家は、こうした要件を満たしていない企業は投資の対象としない、という姿勢を取るところもあります。

コーポレートガバナンスの戦略的手法として、「comply or explain(実施せよ。そして、できないのであれば、その合理的理由を説明せよ。」というものがあります。拘束力のある法律を設定するのではなく、企業の自由に配慮しながらも、政策的な趣旨を緩やかに実現しようとするものです。歴史や文化的差異はありますが、我が国も、真にグローバル世界の一員であろうとするならば、ESG投資といった形で、企業側が変わっていくことが求められます。

それには、こうしたことが、企業収益の向上に資するだけではなく、社会全体にとって必要であり、良い影響をもたらすものなのだ、という考えが広がっていくことが大事だと思います。

「ダイバーシティ」「多様性の尊重」には、段階があります。

①排除(構成員は、ほぼ男性。社会の主要な意思決定が、男性のみにて行われる)
②順応(男性社会の論理に順応できるならば、女性が入ってくることを認める)
③対等(採用や昇進、育児政策等が、制度上だけではなく、実際の運用でも「対等」になる。ただし、マイノリティの意見や視点は“特別なもの”と受けとめられる)
④ ダイバーシティマネージメント (それぞれが違っていて、素晴しい。人々の意識の上でも「対等」になる。多様な能力を活用するために、論理、制度、社会、文化等が変更される)

先駆的な欧米の取組みは、④を目指しているわけですが、実は今の日本は、まだ②と③の間にいます。

④は、「マイノリティが多数派の論理に合わせる」ではなく、「一人ひとりが違っていることが素晴らしい。多様であること・違っていることが価値を発揮する。多様な能力を活用するために、論理や制度、社会、文化等を変更する。」という考え方で、法的・倫理的に労働力の多様性に取り組む段階を越えて、競争優位性を組織にもたらす動力として、ダイバーシティ推進を行うものです。

欧米では1990年代以降、多様性の尊重と企業の競争優位性についての検討が進み、ダイバーシティの取組みを進展させることが、企業の生産性や創造性を向上させる、具体的には、商品やサービスの開発・改良、業務効率化、市場評価の向上、優秀な人材獲得、職場環境改善、離職率の低下等に資することが示され、企業は収益性を改善するために、全社的なダイバーシティマネジメントを目指すようになりました。

ここで重要なのは、女性か男性かに関わらず、個々の人材の活用ができているかどうか、ということです。個々の人材の個性や能力を見ずに,決まった手順・指示命令系統で決まった業務をこなし、それを年功序列的に評価する人事制度のままでは、真の多様性の尊重は実現しません。そして、働き手の側も、「多様性」を構成する大切な一員として、一人ひとりが、自分の考えを持ち、自らを高め、提案する力を育て、組織や社会に貢献する事が求められています。

“仕事”に対する考え方や働き方を、抜本的に変える

私はジュネーブで、WHOと加盟国193か国の外交団と一緒に仕事をする中で、人々の生き方働き方考え方に、刺激と衝撃を受けました。午後5時には仕事を終え、夕食は必ず家族と取る。仕事終わりの飲み会もない。長期間のバカンスもしっかり取る。それでも、国も社会も経済もしっかり回っている。

その頃、仕事ばかりしている私にフランス人の友人が言いました。「人生は、仕事が3分の1、家庭が3分の1、そして、自分の時間が3分の1だよ」と。ハッとしました。当時、私は「仕事が9割、家庭が1割」で、家族どころか、自分の時間なんて考えたこともありませんでした。海外で、仕事をしながら出産し、ひとりで赤ん坊を育てる、綱渡りの毎日でした。けれど、他国の同僚には、2人も3人も出産しながら、いきいきと仕事を続けている女性がたくさんいて、日本との大きな差を痛感しました。

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