株高、日経平均4万円の現実味 「コロナ後」に何が待っている?

山本 学 山本 学

 日経平均株価がついに3万円を突破した。株式相場が記録的な上昇になった昨年11月以降、値動きが少々もたついたと思っても、日経平均が25日移動平均を下回るやいなや、買いの勢いが強まるという展開になっている。この勢いがどこまで続くのかは気になるところだ。米国株の上昇に背中を押されているにしても、日本株に買い材料が皆無というなら買いも入らないはず。改めて上昇している背景を確認しながら、この勢いに転機が訪れるとするなら何がきっかけかを考えてみよう。意外に大きな上げ幅を期待させるシナリオを、描くことができる。

  株式相場の上昇局面では、相場が上昇する理由をおおまかに示す用語に「金融相場」「業績相場」というものがある。「金融相場」とは、不景気の際などに利下げや量的緩和といった金融緩和があり、預金や債券の利回りが低迷すると、行き場を失ったマネーが株式相場に流入して相場を押し上げるケースのことだ。こうしたリスクマネーが市場に供給されることで経済の構造改革が進み、企業の業績が回復すると今度は「業績相場」だ。1株利益が増えて株価に割安感が出てくれば、また資金が流入して株価を押し上げる。

 現在の相場を見てみると「金融相場」かつ「業績相場」という、きわめて珍しい状況にある。日銀だけでなく、米国の連邦準備理事会(FRB)に欧州中央銀行(ECB)と世界の中央銀行が金融環境を緩和的に運営することを表明している。特に日銀は「ETF」つまり指数連動型の投資信託を通じて株式を直接保有するという、前代未聞の政策を継続している。建て前では物価下落を止めるために市場に資金を供給しているので、何か新たな理屈を持ち出さないと日銀は株高でもETFの購入を止められない。こうした資金流入への安心感が相場を支える「金融相場」の側面がある。

 一方で、日本の上場会社は特に製造業を中心に業績が改善している。2月18日付の日本経済新聞によると、製造業12業種で2021年3月期の純利益予想を合計すると、前期比6%増になるという。3カ月前の予想では19%減の見通しだった。新型コロナウイルスの感染拡大で2020年の前半は世界中で経済が停滞し、先行き真っ暗と見られていたのが、急速に世界経済が回復。日本企業でも足元で今期予想の上方修正が相次いだ。その結果、日経平均と採用銘柄の業績から算出したPER(株価収益率)は2月19日現在で22.39倍。ほぼ1カ月前である1月22日の26.09倍から低下した。株価が上がるのに割高感は後退するという「業績相場」だ。

 したがって、現在の買いの勢いがいつまで続くかと考えるうえでは、「金融相場と業績相場の同居」がいつまで続くのか、がポイントになる。金融相場に関しては、日銀の方針転換には新たな理屈が必要であることは前述した通り。加えて米FRBも2月19日に公表した金融政策報告書(通称ハンフリー・ホーキンス報告書)に「経済が完全な回復を遂げるまで、金融政策による強力な支援を継続する」と記載した。この報告に沿って、パウエルFRB議長は議会証言に臨むことになっている。少なくとも金融当局は目先、金融引き締めに転じる様子を見せていないといえそうだ。つまり金融相場を作り出す環境は維持されることになりそう。

 業績相場も、どうやら続きそうだ。すでに株式市場の視線は日本企業の2022年3月期の業績に向かい始めている。注目すべきは、新型コロナのワクチン接種が進むことで、非製造業の収益がどこまで回復するかという点だろう。ざっくりとしたシミュレーションをしてみよう。再び18日付の日経によると、3月期本決算会社の21年3月期の純利益合計は14兆7540億円の見通しだ。このうち4兆9828億円が非製造業の稼ぎ出す純利益になる。新型コロナで大きな影響を受けた運輸2業種「鉄道・バス」「空運」の赤字がなくなるなら、それ以外の業種の利益がすべて横ばい、つまりゼロ成長と仮定しても3月期本決算会社の純利益は今期予想比15%増になる計算だ。

 同様に日経平均の1株利益も15%伸びると考えてみよう。2月19日現在で日経平均をPERで割り算した1株利益は1340円68銭。これが15%増えて1538円87銭。それにPER26倍、つまり1月の水準まで買い進まれるとすれば日経平均株価は4万10円になる。日本企業の増益率がもう少し大きければ、さらに低いPERで4万円に到達する計算だ。2020年の景気悪化は、循環的な不景気でも、構造不況でもない。「コロナ禍」という要因さえなくなれば、経済活動が再び活発化するとも考えられる。こうした動きが顕在化するとすれば、上場会社が2022年3月期の業績予想を発表する4月末ごろだろうか。

 つまり今後数カ月のうちに、瞬間的に日経平均が4万円に到達するぐらいなら可能性は十分にあるというわけだ。とはいえ日経平均のPERを過去10年分ぐらい振り返ってみると、12〜16倍程度で推移している期間が最も多い。足元で20倍を越す高水準で推移しているのは、繰り返しになるが「金融相場」「業績相場」の両方が相場の支えになっているという、稀有な環境のためといえそうだ。だから、どちらかの継続が怪しくなるだけで、株式相場は下落に転じるとの見方が可能だ。金融相場の側面では、金融当局者の発言には一段と関心が集まりやすくなるだろう。業績相場の側面では、本当にワクチンが効くのかが、引き続き相場の焦点であることに変わりない。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース