バイデン新政権の船出とコロナ禍の日常…NY在住女性アーティストの思い「がれきから希望を」

北村 泰介 北村 泰介

 米国の新型コロナ死者は40万人を超えた。バイデン大統領は就任早々からマスク着用の義務化拡大など新型コロナウイルスの感染拡大阻止策を最優先しているが、トランプ前政権以来、その深刻さを信じず、対策への協力を拒む層も存在するなど前途は多難…と報じられている。年明け早々からトランプ支持者による議事堂占拠という民主主義を揺るがす事件も発生し、米国の「分断」がより鮮明になった。そうした状況を受け、在米邦人はどのような気持ちで過ごしているのか。その一例として、ニューヨーク在住のアーティスト・篠原乃り子さんが当サイトの取材に対して思いを吐露した。

 乃り子さんは富山県高岡市出身。1972年に渡米して絵を学び、73年3月、19歳の時に当時42歳の前衛芸術家・篠原有司男さんと出会った。翌年に長男を出産し、79年に結婚。夫との2人展を日米などで開催し、夫妻の日常を描いたドキュメンタリー映画「キューティー&ボクサー」は2013年に日本でも公開された。今年1月には有司男さんの新著「LETTER FROM NEW YORK―篠原有司男から田名網敬一へ、50年の書簡集」(東京キララ社)が出版されたばかり。乃り子さんも同書に登場している。

 米国を拠点にして半世紀近く。乃り子さんは「アメリカの今」について当サイトに思いをつづった。

 「コロンブスが発見して以来、この広いアメリカ合衆国には、世界中から色々な人達が集まって来た」と切り出し、「思想が合わなければ、新しい土地が幾らでもあったから、幌馬車に乗って新天地へ。都会で一攫千金を手にできなくても、金鉱を当てたり、石油を掘り当てたり、可能性に満ちていた事は、西部劇などのテレビ番組や映画とかで、誰でも知っている」と振り返る。

 そして、現在の「分断」に至る米国人の国民性について開拓史も踏まえて指摘。「見渡す限り草原やサボテンの花、岩山に囲まれて、聞こえる音楽は狼の鳴き声、それも生演奏。ポツーンと世界から離れて、新聞も瓦版も無かった日常、質実剛健、純朴で、カルト・リーダーに洗脳され易い。その素朴な知性がまだまだ合衆国には根付いているから、2016年の選挙で利用されてしまった。そして、1月6日の議事堂襲撃をけしかけられてしまった。嗚呼、恥ずかしい!こんな信じられない様な事が現実に起きたなんて!」と嘆いた。

 そんな不安を抱いた乃り子さん。現地1月20日、バイデン大統領の就任式前には「無事に就任してくれますように!その5分前、1分前に暗殺されたりしませんように!どこかにスナイパーが隠れているんじゃないだろうか?こんな変な心配、今まで想像したこともなかったのに」という思いがよぎったことを明かす。

 だが、それは杞憂に終わった。「もう心配ない。アメリカ合衆国が美しく、希望に溢れた姿を見出したのは久しぶり。何かぽわーんと世界が明るくなり、晴れ晴れ」と受け止めた。「もちろん問題は山積みで、現実は楽園じゃあない事をみんな知っている。道は平らじゃなくて、特に近年がれきで一杯になった。でも、がれきの山を辛抱強く崩して行く勇気を持った人がたくさん、そして次々と現れる。就任式で詩人のアマンダ・ゴーマンが高らかに読み上げた様に、もし私たちが勇敢ならば」。鮮やかな黄色のコートに身を包んで世界に訴えた22歳の女性詩人に希望を重ねた。

 一方、依然として、住居のあるニューヨークはコロナ禍で深刻な状況にある。乃り子さんは「いつもは人混みのタイムズ・スクエアもゴーストタウンと変わり、怖いほどに人がいない。地下鉄での感染が怖くて行けないままに9カ月が過ぎた」と振り返った上で、未来を見据える。

 「通勤の為にすし詰の電車で通勤しなくても、リモートワークでも何とかやっていける。外に出られないから、家庭が今まで以上に大事になり、これまで気軽に会っていた友に会えなくて、その大切さが分かり、助け合いの素晴らしさに温かみを知り、自然を大事にしなくてはいけない事が、実感となった。これは人間の勝利だ。もう人間はコロナに勝っている。そしてポスト・コロナは、コロナ以前よりも素晴らしい世界を作るよ!」。乃り子さんは前を向いた。

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