歌うとやってくる猫!?…嬉しい気持ちが溢れてできた愛猫のテーマ曲 目で「うん」と答えた猫との絆

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

猫なんて呼んでも来ない。そう思っている人の方が多いだろう。しかし、我が家の猫は呼ぶと飛んでくるのだ。といっても、名前を呼ぶのではない。彼女のテーマ曲を歌うのだ。そのテーマ曲に乗って、彼女は颯爽と現れる。

テーマ曲のある猫の名は、「きく」という。漢字で書くと「嬉久」。「嬉しいことが久しく続くように」と願いを込めて名付けた。

きくとの出会いは2010年5月まで遡る。この年の4月1日に愛猫「梅鉢」を結石で亡くした私は、完全なペットロスに陥っていた。骨壺を眺めては涙を流し、梅鉢によく似た猫を目にしては涙を流す日々。

これではいけないと、当時の恋人が猫の里親募集のサイトで子猫を見つけてくれた。それが後のきくだ。彼女は大阪市にある大きな公園で、兄弟猫たちと一緒に野良猫生活を送っていたとのこと。それを地域猫のお世話をしている方に保護してもらったらしい。

正直なところ気乗りはしなかったが、私を心配して見つけてくれた猫。一度会いに行くことにした。

譲渡会の会場で初めて会ったきくは、兄弟猫たちに比べて可愛げがない印象だった。彼女の兄弟猫の方が愛想も良く美猫で、もらうならこの子たちの誰かだと。だが、その子たちはすでに予約済み。貰い手がついていなかったのは、兄弟の中できくだけだった。 

可愛げのない猫だから仕方がない。そのまま帰ろうとすると、譲渡会のスタッフがしきりに可愛げのないきくを薦める。「この子は素晴らしいパートナーになります」と。おそらく、さっさと兄弟猫全員を譲渡してしまいたかったのだろう。

そうはいっても、本猫の意志もある。人間の都合で猫の運命を左右するのはいかがなものかと思った私は、きくに尋ねた。

「うちの子になるか?」

きくは、目で「うん」と答えた。とても驚いた。実は、目で「うん」と答えられたのは2回目だからだ。

1回目は亡くなった梅鉢と出会った時。この時も梅鉢でない子を譲ってもらおうと思い、ペットショップを訪れた。後の梅鉢は兄弟猫たちと一緒に、「無料」と張り紙を付けられたケージの中。そのケージに向かって「誰かうちの子になるか?」と尋ねたら、梅鉢だけが「うん」と答えたのだ。

そういえば、ペットショップの店員は「あなたは猫に選ばれた」と言っていたな。きっと今回も猫に選ばれたのだろう。そう感じたため、私はきくを譲ってもらうことにした。

きくが我が家にやって来た初日、私は梅鉢との思い出を彼女に語った。彼が我が家に来た経緯や私と過ごした日々など。きくを梅鉢の身代わりのように扱ってしまうかも知れないという恐れが、私にそうさせた。

そんな私の想いと裏腹に、きくは私の話に少し耳を傾けると膝の上で寝た。退屈だったのだろう。彼女はまだ生後約3カ月の子猫だ。疲れもあったはず。なにより、何を言っているのかさっぱり分からなかったと思われる。

そらそうだ。私は人間で、きくは猫。解する言語が全く違う。通じるはずもない。

それでも伝えたいことが沢山ある。最も伝えたいことは、「そばにいてくれて嬉しい」。それをどう伝えるか考えた結果が、テーマ曲となった。

といっても、わざわざ作詞作曲したわけではない。嬉しいという気持ちが溢れてきた時にふと口ずさむと、きくが気に入ってくれたのだ。これが定番になり11年となる。

このテーマ曲のおかげで、脱走して迷子になってもすぐ見つかる。家の周りで歌うと、嬉しそうな表情で飛んで出てくるのだ。こうやってすぐ見つかるが、私のご近所さんからのイメージは、かなりおかしなものになっているだろう。 

それでも構わない。愛とはカッコ悪いものなのが相場。この嬉しいが久しく続くよう、私は歌う。いつまでも笑顔で私に駆け寄ってきてほしい。

永遠はないと知っていても、そう願って止まない。

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