富山県のローカルコンビニが手作り販売している変わり種おにぎり「クマ」が、農林水産省のWEBマガジン「aff(あふ)」で紹介されました。地元の猟師から仕入れたクマの肉と、富山が誇るコシヒカリと井戸水を使った人気メニュー。家族経営の小さなコンビニが、大手チェーンに対抗するため、アイデアを凝らし続けた末の自信作。経営する一家は、国の“お墨付き”を得て、さらなる進化に燃えています。
この店は「立山サンダーバード」(富山県立山町横江)。伊藤敬一さん(79)が1996年、「普通のコンビニ」として開店しました。人気観光地、立山黒部アルペンルートへ通じる県道沿いにあります。近くに大手チェーンのコンビニができて売り上げが減少したため、おにぎりやサンドイッチを手作りし、生き残りを図ってきました。
変わり種で生き残り
当初は普通の具材でしたが、7年前、常連客のアドバイスをきっかけに多様な食材を使うようになりました。スナック菓子のベビースターラーメンをはさんだ「ラーメンサンド」がヒット。おにぎりの具はワラビやウドなど地元の「山の幸」を経て、富山でも増加傾向にあったイノシシの肉にたどり着きます。
さらに、長男で代表代行の敬吾さんの頭に浮かんだのが、常連のクマ猟師のこと。「クマはなかなか手に入らない食材だし、違いを出せる」と仕入れて売り出すことにしました。
毎朝4時から調理
しっかり下処理した醤油味の肉は柔らかく、コシヒカリとの相性抜群です。毎朝4時からガス釜でご飯を炊いている伊藤さん自身も「クマが一番好きだな」と話します。
クマ肉以外にも、三角すいのチョコ入りサンドイッチ「月へ行こう!」や、豚肉・メンマ・ネギとこしょうたっぷりのおにぎり「富山ブラック」など、次々と生み出される変わり種はSNSで話題に。テレビの全国放送のロケも増えました。
大臣への忖度?いや実力です
それなりに有名になりましたが、実態は、小さな家族経営の店です。なぜ、農水省WEBマガジンaff 11月第2号の「米と和食」特集に取り上げられたのでしょうか。9月に農水大臣に就いた野上浩太郎参院議員が富山出身なので、忖度(そんたく)が働いたのでしょうか?「いや、野上さんが大臣になる前に取材の話があったから違うな」と敬吾さん。店が国の省庁に取り上げられるのは初めてのことで、しかも、オリジナルおにぎり特集の先頭を飾っています。
大臣官房広報評価課広報室に聞いたところ、11月号の特集が米と和食をテーマとしており、地域の和食文化の多様性を紹介したいと考えて、各地のコンビニおにぎりを調べたといいます。「米食推進やジビエ活用に取り組む省の方針も踏まえ、クマのおにぎりを特集の先頭にしました」との答えが返ってきました。やはり忖度はなく、実力でした。
「北アルプスの絶景のおともに、ぜひ、うちのおにぎりを」。伊藤さん親子は、きょうも早朝から調理場でおにぎりやサンドイッチをつくり、レジで待っています。