香港警察による「鬼滅の刃」酷似のキャラ…「コスプレ」との主張に問題はないの? 専門家に聞いてみた

沢井 メグ 沢井 メグ

大ヒット中の映画『鬼滅の刃 無限列車編』。日本だけでなくアジアでも旋風を巻き起こしている。香港も例外ではないのだが、『鬼滅の刃』を巡ってある機関に批判が殺到しているという。それは香港警察だ。香港警察がFacebookで鬼滅キャラに酷似したイラストを投稿し、「完全にパクリ」「鬼滅人気を利用」「世界に恥をさらした」と市民から批判され炎上状態になってしまったのだ。

地元メディアによると香港警察は、鬼滅キャラではなくあくまで「オリジナルキャラの『葡萄』である」と主張。本当に問題はないのだろうか?

確かに「葡萄のキャラ」は存在した

香港警察のFBに投稿されたキャラクターは勢いよくハネた髪の毛、額にはアザを持ち、緑と黒の市松模様の服を着て、刀を振っている。その姿をほとんどの人が『鬼滅の刃』の主人公・炭治郎を思い出すだろう。極めつけは『鬼滅の刃』ロゴ風にデザインされた「騙滅之刃」という文字。炭次郎に見えないと主張する方が難しいと言えるほどのインパクトだ。

ただ肌の色は紫で、よく見ると頭に果物のヘタのようなものも見える。インパクトが強すぎて完全に炭治郎だと思ってしまうが、葡萄と言われたら葡萄だ。この葡萄キャラクターは確かに以前から香港警察の詐欺防止キャンペーンで登場していた。少なくとも2020年6月には香港警察のFBで確認できる。

オリジナルキャラが鬼滅のコスプレをした?

香港メディア『アップルデイリー』によると、香港警察サイドはあくまでオリジナルキャラの葡萄であり「コピーではない」としているそうだ。香港警察の主張に沿って見れば、「元々いたオリジナルキャラである『葡萄』に、炭次郎のコスプレをさせた」と解釈できるだろう。

しかしこの手の「キャラのコスプレ」がセーフだったら人気キャラをダシにして何でもありになってしまうのではないのだろうか? それはさすがに違和感がある。ということで、専門家に聞いてみた。

「コスプレ」はセーフなのか? 専門家に聞いてみた

答えてくれたのは「はつな知財事務所」の浜崎晃弁理士だ。弁理士とは特許や商標など特許庁に対する出願代理手続きを務める知財のスペシャリストで、著作権関連の専門家でもある。

-まず著作権のなかで「キャラクター」はどう扱われるのか教えてください。

「漫画のキャラクターそのものは、美術の著作物として保護されます。そのため例えばキャラクターの『絵』を描いたものを販売したり、その『絵』を販売する商品に貼り付ける等の行為は、著作権者の『複製権』(著作権法第21条)を侵害することになり、認められません」

-無断でキャラクターのグッズを作って販売することはアウトということですよね。では、コスプレとなるとどうでしょうか?

「いわゆるコスプレ、つまり漫画等の登場人物の衣類を真似たものを着用する行為については、いわゆる『マリカー訴訟』が参考になります」

-任天堂のゲーム『マリオカート』のコスプレをしてゴーカートに乗るツアーでしたでしょうか。実際に街で見かけたことがります。最初は任天堂公認なのかと勘違いするくらいでした。

「そうです。マリオのキャラクターのコスチュームを着て、公道をカートで走行させるサービスを行っていた会社を任天堂が訴えた事件です。

事件を取り扱った知的財産高等裁判所第2部(森義之裁判長)は、結論としては、キャラクターのコスチュームを着用する行為が著作権法違反になるかどうかは判断せず、不正競争防止法上の『不正競争』に当たるとし、任天堂の損害賠償等を認めました」

-損害賠償額が5000万円でしたよね。ということは『鬼滅の刃』のコスプレでも…。

「そうですね。日本国内において『鬼滅の刃』のキャラクターを思わせる扮装をさせ、それをもって顧客を呼び込んで利益を上げるようなサービスを提供した場合には、同様に不正競争防止法上の『不正競争』となる可能性があります。ただし、海外においては当該国の法律が適用されることから、上記のような判断がなされるかは不明です」

   ◇   ◇

前出の香港メディア『アップルデイリー』によると香港警察サイドは、「香港の版権条例には例外規定があり、研究、教育、時事報道、緊急を要する政府の事務手続き、司法手続き等の目的において他人の著作物を使用することは認められており、著作権の侵害にはあたらない」とコメントしているそうだ。

香港警察の主張のように、今回の葡萄へのコスプレは法的には問題はないのかもしれない。だが結果として炎上し、国外にまで広がってしまった。更なるイメージダウンは避けられないだろう。

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