「耐震診断するまでもない」 ドラマロケでも使われた築69年の庁舎解体へ…お別れ見学会で「グッバイ」

北日本新聞 北日本新聞

 「耐震診断するまでもありません。ダメでしょう」-。大きな地震が来たら、損壊すると言われ続けながら、使われてきた富山県黒部市の旧庁舎が取り壊されることになった。1951(昭和26)年に完成した築69年の建物だ。5年前に新庁舎が完成するまで県内最古の役場だった。テレビドラマのロケにも使われた。10、11の両日に開かれた最後の見学会に訪れた市民からは、長く持ちこたえた旧庁舎に「これまでありがとう」「グッバイ旧庁舎」と感謝の言葉が続いた。

「カエル男」で埼玉の警察署に

 旧庁舎は1951年、北アルプスの麓、黒部川扇状地に位置する旧桜井町(現黒部市)の役場として新築された。鉄筋コンクリート3階建てだが、戦後間もない物資不測の時期の建物だけに「本当に鉄筋が入っているか怪しい」(職員OB)という。

 ただ、デザインはモダンだ。レンガ張りの壁と窓が規則正しく並び、室内の白塗りの天井も美しい。「この世にないような建物だった。ここで働けることになり、誇らしかったよ」。元職員の広川和雄さん(86)が勤め始めた当時を振り返る。

 重厚な雰囲気を持つ旧庁舎は昨年、テレビドラマ「連続殺人鬼カエル男」のロケ地となり、「埼玉県警飯浦署」として登場。刑事役の工藤阿須加さん、鶴見辰吾さんらが撮影し、多くの市民もエキストラとして出演した。

 旧庁舎見学会で2階の市長室を訪れた市内の大工、松田謙次さん(69)は「自分と同い年の建物が取り壊しになるというから見に来た。立派なつくりなのに、無くなるのはちょっと寂しい」。特別公開された市長室の椅子に座りながら、部屋をじっくりと眺めた。

新幹線建設・後継選考…歴史の舞台

 その市長室は、市の歴史的な瞬間が刻まれた部屋でもある。「市内に北陸新幹線の駅を建設することが決まったという連絡が荻野幸和市長(故人)のところへ入り、みんなで拍手して喜んだことを覚えている」。長く市長秘書を務めた川端真澄さん(66)は感慨深げだ。

 隣の市長応接室では、木島信秋市議(68)が衆院議員候補選びの舞台となった部屋で当時を思い起こした。「現職議員が急に亡くなって、後継として市長の荻野さんが出るべきか、県議だった宮腰光寛さん(安倍内閣で沖縄北方兼1億総活躍担当相)にするか、ここで話し合ったのが懐かしい」。川端さんも「あのころ、窓の外をずっと見つめて考え込んでいた市長さんの背中が思い浮かびますね」と話す。取り壊し直前になっても、重厚な雰囲気が漂っていた。

トイレに入ったら隣に市長 「緊張したよ」

 旧庁舎は威厳がある一方で、戦後間もない建築だけに手狭だ。市長専用のトイレはなく、辻泰久市議会議長(73)は、市議になる前、所用で庁舎に来てトイレに入ったら、隣にいたのは市長ということも。「緊張してしまって、用を足せなかった」と笑う。愛着のある庁舎の見学会であいさつに立ち、「グッバイ旧庁舎」と語り掛けた。

 庁舎の3階は議会議場と議員控室、議長室がある。「昔の議席は『いろは』順だった。だから『いわい』の俺が最前列の右端」と話すのは、のちに市議会議長を務めた岩井憲一さん(73)。久しぶりに議長席に座り、市町村合併や新幹線建設をめぐって、さまざまな議論が交わされた議場を見渡した。「庁舎のすぐ裏には居酒屋がいくつかあって、荻野さんとよく飲みに行ったり、マージャンしたり、けんかもしたな」と笑った。

解体後に交流センター建設

 阪神大震災や中越地震、東日本大震災と国内で地震災害を経験するたびに、全国の自治体で建物の耐震化が進められた。黒部市も手をこまねいていたわけではなかった。ただ、優先順位は子供たちが過ごし、被災時に避難所となる学校施設や、緊急時に対応する消防庁舎を先に改修してきた。その間にも庁舎の老朽化は進み、ボイラー室から重油が漏れ、電話回線が不通になるなどトラブルが続いた。

 新庁舎が完成したのは2015年。旧庁舎から約300メートル離れた小学校跡地に建つ。5階建てで、交流サロンや食堂、屋上庭園も備え、市民に親しまれている。一方、旧庁舎は跡地の利用を検討しながら、解体の時を待っていた。議論の末、図書館や市民会館、公民館の機能を持たせた「交流センター」を建設することが決まり、いよいよ本年度中に取り壊されることになった。

 最後の見学会に訪れた80代の女性は「重みのある旧庁舎の解体で寂しくなるけど、交流センターは私たちも気軽に入れる市民の施設になるよう期待しています。それまで元気でいなくちゃ」と話した。まちの賑わいづくりを狙う交流センターは、23年春の開設を目指している。  

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