あっと驚く切れ味の秘密は8個のボール 美容師を虜にするプロ用はさみ 小さな町工場が一貫生産

北日本新聞 北日本新聞

北アルプスのふもと、富山県黒部市に知る人ぞ知る美容師向けはさみの専門メーカーがある。その名は「シザーズ・ジャパン」。従業員20人ほどの小さな町工場だが、高い技術力を生かし、年間3000丁のはさみを製造・販売する。目指すのは「切る人も、切られる人も気持ちよいはさみ」。美容師を虜にする軽い切れ味の秘密は、8個のボールで動くねじ部分のベアリングにあった。

営業マンが一念発起

 シザーズ・ジャパンは社長の長江良光さん(55)が、2001年に創業した。当時、テレビ番組などでは「カリスマ美容師」が大ブーム。かつて美容師でもあった長江さんは当時、はさみ研磨機メーカーの営業マンとして全国を飛び回っていた。1日に何十人もの髪を切る美容師は「切れ味がよく、疲れにくいはさみを求めている」と自らの経験からも感じており、一念発起して、ものづくりの道へ進んだ。

 長江さんによると、はさみの切れ味は、刃の鋭さと刃を安定して食い込ませる力で決まる。いくらいい包丁を使っても、まな板がぐらぐらするとうまく切れないことと同じ理屈だ。

 刃を安定して食い込ませるためには、刃と刃をねじで強く締める必要がある。だが、強く締めすぎると刃が動かず、切れ味が重くなる。逆に緩すぎては、刃が交わらず、全く使い物にならない。

切れ味に驚嘆!追加で注文も

 そこで長江さんは、刃と刃を締めるねじの内部構造に着目。ねじ回りを円形に加工し、そこにベアリングを装着することを思いついた。ベアリングは軸受とも呼ばれ、回転時の摩擦を小さくする部品。あらゆる機械製品の「見えない部分」に採用されている。

 シザーズ・ジャパンのはさみは、刃を締めるねじの内部で1ミリ以下のボール8個がゴロゴロと転がる仕組み。スムーズな動きとともに、ねじの圧力が安定して刃に伝わるため、長時間にわたり、軽いカットができるようになるという。

 一度使った美容師は切れ味のよさに驚き、すき用、メンズ用など複数種類を追加注文することも珍しくない。

 シザーズ・ジャパンは、東京、大阪、名古屋、福岡をはじめ、北海道、新潟、広島にも営業マンを配置し、美容師をサポートする。刃の線や形、持ち手のインチなど細かくオーダーを取り、唯一無二のはさみを作る。

 美容師の細かな要望に応えられるのも、自社工場を持つ強みだ。注文を受けると、特殊ステンレスの板を切断することから始める。設計から製造、研磨、そして販売と一貫して手掛け、低コストと短い納期を実現する。創業当時、家族ら7人で始めた会社は今や社員20人以上を抱え、年商も最盛期は2億4000万円となった。

 メンテナンスにも力を入れる。年間1200丁のはさみが黒部の自社工場に戻り、ねじ部分の調整や刃の研磨などを行う。丁寧にリペアして輝きを取り戻したはさみは、再び美容師の元へ届けられる。

 現在、ホームページを改良しており、自社サイトから、一般ユーザー向けにはさみを販売する準備を進めている。プロの美容師向けと仕様を別にし、機能面や価格面で差別化する。より高い精度が必要な医療用はさみの開発も将来的な目標だ。

欧州、アジアに販路開拓

 高い技術力は、海外からも注目を集める。長江社長はロンドンで開かれる展示会に2年連続で参加し、商談も進んでいる。ヨーロッパやアメリカを中心に、中国や韓国、台湾といったアジアにも販路開拓を目指している。

 最近はコロナ禍の外出自粛による巣ごもりの影響で、美容室の来店客が減り、営業活動は停滞している。そんな逆境にあっても、長江さんは刃の形状をできるだけフラットにするなど技術改良に余念がない。「だいぶ完成形に近づいてきたが、まだまだ勉強の毎日」と笑顔を見せる。ピンチをチャンスに。海外進出をにらんで名付けた「ジャパン」の社名が、世界へ羽ばたく日を夢見ている。

■シザーズ・ジャパン https://www.scissors-japan.com/

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