「葬祭では黒マスク」謎のマナーに…葬儀社「白で大丈夫!」動画で訴え 白黒つけない「鯨マスク」も提案?

中将 タカノリ 中将 タカノリ

8月31日、まいどなニュースで「葬祭では黒マスク着用すべし」という謎の葬祭マナーが生まれていることを紹介したところ大きな反響があった。

【参考記事】「葬祭では黒マスク着用?…謎の葬祭マナー誕生にとまどいの声」リンク

J-CAST、BuzzFeedなど複数のメディアや葬祭関連サイトでもこの話題をフォローしてくれたようだが、僕はそれらをチェックする中で特に光るコンテンツを発見した。それは愛知県名古屋市にある西田葬儀社が制作した「葬儀は黒マスク着用がマナー?!」と題するYouTube動画。

西田葬儀社にお勤めの男女コンビが黒マスクマナーについて正当性を検証し、しまいには漫才まで披露してしまうという何とも香ばしくホットな内容の動画だ。しかも動画の公開日はまいどなニュースで記事を公開した翌日!たった1日でこの動画を制作するのは大変なご苦労があったと思うが、そこまで西田葬儀社を駆り立てた原動力とはどのようなものなのだろうか?

YouTube動画のメイン進行役である西田葬儀社の蜷川さんにお話をうかがってみた。

中将タカノリ(以下「中将」):YouTube動画を発見して、よく調べたらJ-CASTトレンドさんからインタビューを受けておられる記事が出てきて「うちでもインタビューしなくちゃ!」と思いました(笑)。話題の黒マスクマナーですが、もともと一般の方からお問合せなどはありましたか?

蜷川:もともとは特にお問い合わせはありませんでした。葬儀の場においてはマスクの色はあまり気にされず、基本皆様は通常の白マスクで参列されます。逆に黒マスクを見かけることは本当に少ないです。

それなのに今回「黒マスクで参列するのがマナー」という説を紹介するまいどなニュースさんの記事を見てびっくりしました。そしてその件についてツイートしたところ非常に反響があり、皆様が黒マスクじゃないといけないのかと不安に感じていたことがわかり驚かされました。

中将:反響があってなによりです!記事は8月31日公開でしたが、9月1日にはもう黒マスクをテーマにしたYouTube動画を公開されていて、そのスピ―ディーさにびっくりしました(笑)。今回の動画制作に込めた想いをお聞かせください。

蜷川:葬儀社として、「黒マスクじゃなくても大丈夫です」ということを伝えたかったのが第一です。葬儀社的には「黒マスクじゃなくてもいいに決まってる!」ということは常識的に分かるのですが、葬儀は知られていないことが多いイベントです。一般の人にとってはブラックボックス状態で迷ってしまうという気持ちもよく分かります。

葬儀に参列した経験のある方は現代では珍しくなりつつあります。昔は葬儀があると近所の人が総出になってお葬式をしたものですが、最近は家族葬が増え、葬儀に参列する機会が減っていると思います。

また、非日常の世界で生きる葬儀社の人や、葬儀会館という建物に対し、なんだか近寄りがたく、怖い印象もあると思います。しかしYouTubeならそんな壁も越えられると思い、葬儀に関心のない方にとっても分かりやすく伝えたいと思いました。

中将タカノリ:そんな熱い想いが込められていたんですね!
たしかに黒マスクマナーについての検証は興味深かったですが、僕としては終盤の「鯨マスク」ネタも絶妙なツボでした。なんでこんなネタを配置されたのでしょうか?

蜷川:もうこれは単純に、動画にオチをつけたかっただけです…。黒や白で言い争うくらいなら、もうどっちもつけてしまえばいいではないかと…(笑)

でも真面目な話もすると、日本にはマスクのみならず葬儀自体の色が黒か白かで揺れ動いているという歴史があるんです。そもそも日本の葬儀の色は白でしたが、明治維新などの影響で欧米列強の「葬儀は黒」という概念が入ってきました。そこから生まれたのが、日本独特の葬儀を表す白・黒の幕「鯨幕」です。日本の古来からの白、海外の黒にうまく折り合いをつけたものです。

外国の文化を否定せずに上手に受け入れ、かつ自分の文化も生かして新たな文化を創造する、これは日本の文化の良いところの一つだと思います。そんな想いも込めて、鯨マスク…「鯨幕」と言葉も似ていて一文字違いだったので、オチにしました。

中将:うまいことまとめはりましたね(笑)。
一部の方による黒マスクをマナー化しようとする動きに対してどのように感じていますか?

蜷川:実際の葬儀の場を知っている方なら、きっと唱えることのなかったマナーだろうと思います。なぜなら葬儀は急であること、そして黒マスクは店舗で見つけるのが難しいということです。頑張っても準備が出来ないものに対して、マナー違反と言われるのは大変だと思います。 また昔からの風習や考えを重んじる葬儀において、最近出てきた黒マスクというものがマナー化されるというのも疑問が湧きます。

中将:黒マスク以外で一般の方からマナーについて質問されることはありますか?

蜷川:香典やお布施でお金を包む場合に「ピン札ではいけませんか?」という質問はよくあります。不祝儀である葬儀の場合、お金を前もって準備していたように思われるので、ピン札は使用しない風習となっています。急な訃報の知らせを聞いて、家の中を慌てて探しに探して、ようやく見つけたお金を包むという意味合いがあるからです。

しかしTwitterのコメントで「現代なら慌ててATMに行くから、ピン札でもいいのでは?」というものがあり、それはそれでなるほど…と思いました。逆に、そういった現代に残る昔からの葬儀の風習から「昔はATMもなかったし家中を探し回ったんだな」と昔の人々の生活に想いを巡らせることもできるのも良いと思います。

中将:歴史的な行事、作法という観点から捉えると葬儀にも独特の面白さがありますね。

蜷川さんは葬祭マナーとはどのようなものであるべきだと思われますか?

蜷川:葬儀とは厳粛の場であり、マナー違反は避けたいものです。参列するときは服装や言葉遣いなど様々な決まりがたくさんあるので不安になり、気持ちが張り詰めてしまうこともあるでしょう。しかし葬儀において最も大切なことは故人様を想う気持ちだと考えますし、また、マナーとは相手を思いやることだと思います。マスクが黒いか白いかなど、見た目や行動をただ模倣するのではなく、その土台に相手を思いやっているかどうかです。仮に通夜の場に喪服でなく仕事着で行ったとしても、急いで駆けつけてくれたのだなと捉えることもできます。もし新たな葬祭マナーを作るなら、ご遺族や参列される方達目線で作られたものであってほしいと思います。

   ◇   ◇

『株式会社 西田葬儀社』
所在地:愛知県名古屋市昭和区若柳町2-5
公式サイト:https://www.gosougi.co.jp/

   ◇   ◇

蜷川さんのお話をうかがって葬儀や葬祭マナーのありかたについて改めて考えさせられた。同時に、世間を騒がせた「黒マスクマナー」がいかに的はずれなものであるかもよくわかった。このような意味のないマナーを流布する人を早々に撲滅できればいいのだが…。

ちなみに僕には黒マスクマナーに関するさまざまな疑問が霧散した後も、なお気にかかっていることがある。それは今回紹介したYouTube動画で蜷川さんの相方をつとめる鶴見さんのこと。僕が死んだ時は鶴見さんのようなキュートで可愛らしい方に葬儀スタッフをしていただきたいなと夢想する初秋のこの頃である。

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