「なぜ虫歯見つけるの」「他の患者入れないで」…コロナ禍で投げ掛けられた“厳しいご意見”に嘆く歯科医

広畑 千春 広畑 千春

 「なぜ虫歯を見つけて通わせようとするのよ?コロナよ、コロナ!」 

 「一日で虫歯の治療全部終わりますか?」 

 「他の患者入れないで、俺だけ診るってできないの?」 

 「アルコール、換気、フェイスシールド、次亜塩素、オタクちゃんとコロナ対策してるの?!」 

 これは、ある歯科医が「このコロナ禍で頂戴した」という「様々な厳しいご意見」。これに対し、歯科医は「ソーシャルディスタンスは距離を取りつつも心の距離は近づけつつ、みんなで頑張って行こうというものだと私は認識しています。最近、自分が間違っていないか自問自答する事が本当に増えました」と、ツイッターにつぶやきました。

 どう考えても無理難題というか、不条理極まりないというか…。それでもこのツイートには全国の歯科医らから「その通り」「こちらも決死の覚悟で治療しているので検温、消毒してお越しください、と言ったらかかと落とし食らわせられるんでしょうね」等のリプライが寄せられ、これらが決して特異な出来事ではないことをうかがわせました。

 投稿したのは、驚異の空き箱工作や愛息に手作りしたおもちゃで度々話題になっている、神奈川県の笠間歯科クリニック院長の笠間慎太郎さん。その思いを聞きました。 

 ―この「ご意見」は実際に言われたのですか? 

「『虫歯を見つけて』と『一回で終わらせて』は実際に経験し、残り二つは友人の歯科医師から聞きました。コロナの影響は歯科医院にも大きくありました。今回もこの内容を出すべきか、出した後も削除するべきか何度も自問自答しました。しかし、投稿したところ日本中の歯科医師がこのような経験を少なからずしていることをツイートの反響で知ることができました。人の心までソーシャルディスタンスではいけないと思います」 

 ―歯科の診療で「?」と感じる出来事もイラストでツイートしていらっしゃいます。これを見ると、歯科医と医師とでは患者側の態度も“差”があるような…。 

「現状、お医者さんとは大きな差があると思います。子どものなりたい職業にもランクインしませんしね…。それに対して私自身は不平を感じていませんが、仕事をしていて、歯医者が嫌いと言われる機会は非常に多いです。それだけ当院が言いやすい環境を作れているのかな?とも前向きに考えるようにしていますが…。でも、『嫌い』から関係性を構築していかないといけないのでなかなか厳しいなと思うことも少なくありません」 

 ―確かに、「医者嫌い」よりも「歯医者嫌い」な人は多いかもしれません。 

「歯科治療は『歯を抜かれた』『歯を削られた』と言われがちですが、お医者さんで『脳腫瘍を取られた』という人はまず居ないと思います。一方で採血では『血を抜かれた』という人も多いのでは。つまり、直接的に命に関わらないけれど痛くて嫌な処置に対しては、ついつい『された』というような被害者意識が生まれるように感じます。でも必要とされる以上、そのようなことも全て飲み込んで全国の歯科医師は頑張っていることはご理解いただきたいと思うんです」 

 その背景には、歯科医の治療というものが、知られているようで知られていない、というのもあるのかもしれません。そんな歯科治療の知識や、日ごろ感じたモヤモヤ?を、独特のゆる~いイラストで描き続ける笠間さん。昨年初めにはツイッターで「親知らず一覧」のイラストが話題を呼び、イラストによる歯科治療の解説本「歯科医院のトリセツ」を執筆することに。

 アルフォートの空き箱で作った超人機メタルダーやマクドナルドの包み紙のシャア・アズナブルなどの工作をしながら、1年ほどかけて作り上げました。本は今月出版予定で、「医学書を漫画の絵で埋め尽くすという非常識をやり尽した自信はあります!」と胸を張り(?)「一般の方向けに執筆しましたが歯科関係者にも笑って頂けたら」と話します。 

 多彩な顔を披露している笠間さん。「こんな時代です。本当に毎日大変ですよね。でもツイッターを開いたら同業者でもそうでない方も『あ、おんなじようなこと考えている変な人間がいるんだ』とか『変なことばっかりするなあこの歯医者』みたいに少しでも共感を分かち合ったり、時に非日常が見せられたりするような活動をこれからもしていきたいと思っています」と語ってくれました。 

 「歯科医院のトリセツ」治療編・通院編 A4判変、72ページ。税込み2970円。(近刊) 

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