ライブハウスに課せられた重すぎる感染防止ガイドライン…神戸の老舗「チキンジョージ」の今をレポート

中将 タカノリ 中将 タカノリ

6月13日、政府とライブハウスの業界団体はライブハウスの営業再開に向け感染防止のための注意事項をまとめたガイドライン「ライブホール、ライブハウスにおける新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」を発表した。

項目は多岐にわたるが要旨は以下のようなもの。
・店内における対人距離はできるだけ2mを目安に、最低1m確保する
・来場人数は原則として従前の50%以下を目安とする
・出演者と観客の間の距離をなるべく2m確保。できない場合は飛沫が飛散しないよう対策する
・客や従業員のマスク着用、手洗い、消毒を徹底する
・店内を消毒、換気する

再び新型コロナウイルスの流行を広げないためにも基準を設けるのは当然なのだが、気になるのは店内における対人距離や来場人数に関する基準。チケット代とドリンク代から売上を作るライブハウスが、果たしてこのような基準を守って経営が成り立つのかと心配でならない。

6月28日、僕は創業40周年を迎える神戸市の老舗ライブハウス「チキンジョージ」を訪れ、ガイドライン下のライブハウス運営がどのようにおこなわれているのか取材した。チキンジョージでは新型コロナウイルスの影響で2月末ごろから公演延期が相次ぎ、4月、5月はほぼ全てが延期もしくは中止。6月27日に約3ヵ月ぶりにようやく営業を再開したところだ。

この日の公演は元ラッツ&スター山崎廣明さんが率いるオシャレルズなど3組のロックバンドが出演するイベント。スタンディングなら最大500人を収容するチキンジョージだが、この日の収容人数は1mおきに椅子を置いた着席スタイルで70人限定。出演者は次から次へとリズムのきいたロックンロールやR&Bが奏でるが、果たしてどのようにお客をあおっていいのか、またお客もどの程度ノッていいのか探り探りといった印象だった。

公演後、チキンジョージ専務の児島勝さんからライブハウスの現状についてお話をうかがった。

中将:3カ月ぶりに公演が再開して2日が経ちましたが今後の運営に向けての実感はいかがですか。

児島:休業中も近所のライブハウスと連携してライブ動画配信をするなど新しい楽しさの発見がありました。でもやっぱり生のライブを再開できることはなにより嬉しいです。まだまだ油断はできないし感染対策については試行錯誤の途中ですが。

中将:今回の公演は客席が1m間隔、70人限定という厳しい条件ですが、収支的には大変じゃないでしょうか?

児島:正直、やればやるほど赤字にはなります。でもこの場所で働いてくれるスタッフや、ライブを楽しみにしてくれるお客さんのためにも今から再開するしかないですね。これまでにも阪神大震災やいろんな試練がありましたが、しぶとく続ける気さえあれば必ず事態を好転できるタイミングに出会えると信じています。

中将:今回の公演を観ていても、お客さん、出演者、スタッフの方がそれぞれ緊張しながらもライブを心待ちにしていた様子がよくわかりました。

児島:有難いことです。僕たち経営者の手を離れた、それぞれにとっての「チキンジョージ」があるのだと思います。どこのライブハウスの経営者も同じことを考えていると思いますが、今この場所を守ることが僕たちの務めだと思っています。

◇  ◇  ◇

また、以前チキンジョージの運営に関わり、今回の公演に観客として訪れていた芸能プロデューサーの宮内志郎さんからもお話をうかがった。

宮内「代表の児島進は同級生。勝くんも小さい時から知っているので心配になり足を運びました。関わっていたのでわかりますが、3カ月も休まないといけないなんて、ライブハウスにとっては大きすぎる打撃です。交通機関やスーパーマーケット、飲食店など他の業種がほとんど以前同様の混雑ぶりを見せているのに、なぜライブハウスだけがという憤りもあります。

でも今日久しぶりに会ってみて、チキンジョージの経営者やスタッフたちに打ちひしがれた様子はありませんでした。お客さんたちも控えめではありますがとても楽しそうだった。ライブハウスは街とお客さんに生かされるもの。もっともっと多くの人に関心をもってもらいたいですが、この様子ならどうにか大丈夫じゃないかと胸をなでおろしています。」

◇ ◇ ◇

ライブハウスを取り巻く環境はなお大変厳しい。しかし音楽を愛する人々と粘り強くライブの場を守ろうという児島さんのような経営者がいる限り、けっしてその灯が潰えることはないだろう。現状のガイドラインを段階的にでも緩和してゆくため、社会が新型コロナウイルスの克服と経済再生の同時進行に取り組んでゆけるよう願う。

なお今回取材にご協力いただいたチキンジョージは創業40周年を迎えるにあたり、さまざまな文化事業を企画中。詳しくは「ライブハウス チキンジョージ40周年特設サイト」をご覧いただきたい。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース