コロナで余った在庫を全部救済!利益も全て明かす北海道の菓子店 その“男気”の理由とは

広畑 千春 広畑 千春

 新型コロナ特措法に基づく緊急事態宣言が延長され、売れ残りの在庫を抱えた業者の支援にネット通販も広がっています。そんな中、自社も大幅な売り上げ減に直面しつつ在庫を全量買い取り販売している北海道長万部町の菓子店があります。驚くべきはその値段だけではなく、企業秘密のはずの仕入れ値や利益まで全てオープンにする姿勢。そこには「苦しい時こそ見えない部分を透明化し、裏表のない情報を届けたい」という信念がありました。

 「お菓子の王国 はっぴーディアーズ」。児童数減による統廃合で2010年に閉校した町立中の沢小学校を改装して工場兼直売所に。派手な外見に看板商品「雪花青」などのほか、珍味や他メーカーのお菓子が特価で並び、楽しい手書きのポップや無料コーヒーサービス、オリジナルソングなども人気です。そんな同店が先月22日にツイートしたのは、元体育館の倉庫に山積みの段ボール箱の写真と「コロナで納品できなかった問屋さん救うために全部買ってあげたのです。よろしくお願いします」のメッセージ。

 定価の約8―6割引きという価格もあり、瞬く間に拡散し、一晩で売り切れました。さらにブログには仕入れ値と売り上げ額、人件費等を除いた純利益が詳細に記され、「出荷作業にあと1日かかっていれば赤字でした」「問屋さんは期限間近とは言え、1箱300円―400円の赤字を切っている。そのことを考えたら高くなんて売れません。できません」と明かします。

―こんな赤裸々に…大丈夫なんですか?

「実は1年以上前から明かしているんです。というのも最初の改装時に莫大な借金を抱えたため、大工に頼むお金がなく、看板や店の内装なども全て手作りなんです。でも社長も『会社の中身をもっとバラした方が、どれだけ苦しんでて、一生懸命やっているかが伝わる』という姿勢ですし、消費者が一番気になるのが店の懐具合。誰だってぼったくられるのは嫌ですから。この狭い地域で、恥も顔もさらし、プライドをかなぐり捨てても内情を明かすことで、今本当に苦しい同業者や問屋さんらの現実の一端を伝えられたら―と思いました」

―見事に売り切れました。

「まさかここまで反響を頂けるとは。引き受けた時は軽く考えていたのですが、賞味期限は1カ月後に迫り、荷下ろしをしながら『会社を潰してしまうかも…』と本当に震えてきました。でも、このツイートを機に300人ほどだったフォロワーさんが一気に3000人に増え、売り上げは一晩で60万円以上に。元々他社商品は『副業』と捉えているので3%ぐらいの利益率で値段を設定しており、今回も純利益は1万8千円ほどです。ただ、土産物は箱包装が多く分別費用始め廃棄にもお金がかかりますし、少しでもお役に立てたなら本望です」

 と話します。今月1日には冷凍イチゴ4トンと冷凍ハスカップ5トンを売って欲しいと依頼があり、再びツイートしたところ、10キロ単位の販売ながら前回を上回る3万以上の「いいね」が付き、DMはパンク状態に。急きょ通販用ページを作り、残り3トンを2時間で売り切ったそうです。「まさかお菓子をイチゴが超えるとは…」と驚きつつ、現在、総掛かりで配送作業中とか。フォロワーはついに7000人を超え、今も問い合わせが相次いでいるそうです。

 同社でもコロナの影響で2月まで前年同期比1.4倍ペースで伸びていた売り上げは3月に98%、4月は70%、5月に入ると65%に落ち込む日もあり、特に空港等での売り上げは壊滅状態。毎月の借金返済もあり「コロナ対策の助成金等も申請するつもりですが、長万部では他に働く場所は港ぐらい。社員の人生を預かっているのに自粛する余裕はとてもなく、店を開けるしかないんです」とも。その港の主要産業である養殖ホタテもヨーロッパや中国への輸出が激減しているといいます。

 「TVやニュースを見ると、もう世も末だなと思うことがたくさんあってどことなく気持ちも荒んだ感じになる時もありますが、こんなにいい人っているんだ、こんなに応援してくれる方々がいるんだと本当に感動しました」と中の人。「どうせ潰れるなら、自分たちが面白いと思うもの、自分たちだから出来ることをやり尽くしてから、でありたいですから」

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