「余命1カ月半」宣告…ステージ4Bの末期がんを克服 「生きる力」を与えてくれたのは3匹の猫たち

岡部 充代 岡部 充代

 2015年4月、鎌田晶子さんは普通なら目の前が真っ暗になるような宣告を受けました。「子宮体がんステージ4B」。すでに肺やリンパ節への転移も見られ、いわゆる「末期がん」だと告げられたのです。

「聞いたときは『私、死ぬんだな』と思いました。死ぬのは怖くなくて、たとえ死んでも、私より先にがんで闘病していた母が元気になってくれるならって、そう思ったんです」(鎌田さん)

 

 体調に異変を感じたのは2カ月前のことです。不正出血と下腹部の痛みで近くの産婦人科を受診しましたが、「良性の筋腫」と診断され治療も薬の処方もされませんでした。しかし、下腹部の痛みは増すばかり。3月初旬に改めて総合病院を受診しても、痛みの原因やその頃から出始めた咳の原因は分からず、検査と結果待ちを繰り返す日々が続いて、「子宮体がん」と判明するまでに1カ月以上要しました。そして専門医のいる病院に行き、冒頭の宣告を受けたのです。

「日本では子宮体がんの症例が少なく、約1万人。そのうち私みたいに進行した症例は約6%。治療法も定まっていないと言われました。私の場合、見つかった時点で放射線治療や手術は不可能なほど進行していたので、先生と相談して、まず抗がん剤治療を行い、がんを小さくできたら手術する、という治療方針になりました」(鎌田さん)

 5月2日に抗がん剤治療を開始。当初はゴールデンウイーク明けからの予定でしたが、そんな猶予はないと早められたほど、鎌田さんの体の中にはがん細胞が増殖していました。もし初回の投与でアレルギー反応が出ると、効果が低いとされる抗がん剤への変更を余儀なくされるそうですが、鎌田さんにアレルギー症状はなく、無事に1回目の投与を終了。以降、3週間に一度のペースで抗がん剤治療を続けました。

 

 個人差はありますが、抗がん剤には副作用が付き物です。鎌田さんも脱毛や吐き気、倦怠感といった副作用に苦しみました。体調が良ければ家族や友人と食事に出掛けたり、気分転換もできるのですが、部屋で一人になると、とてつもない不安に襲われることも。そんな鎌田さんを支えてくれたのは、3匹の猫たちでした。

 鎌田さんは治療開始のちょうど1か月後からブログを始め、末期がんと向き合う日々の生活や思いを発信していましたが、そこにはたびたび3匹の猫が登場します。長男・ガイル君、次男・セフィロス君、三男・ロクサス君の3兄弟。みんな、鎌田さんのことが大好きです。

「私がつらいとき、それは体がしんどいときも、精神的に落ち込んでいるときも、代わる代わるベッドで寝ている私の上に乗ってきて、喉をゴロゴロ鳴らしてくれるんです。あの音には人を癒したり、病気やケガを治す効果もあるらしいですね」(鎌田さん)

 

 実は鎌田さん、がん治療を始めて間もない6月にお母さんを、7月におばあさんを相次いで亡くしました。「私が健康で、もっとたくさんお世話してあげられていたら…」。自分を責めては泣いていたという鎌田さんに寄りそってくれたのも、やはり猫たちです。

「この子たちがいなかったら、たぶん『あ~、もういつ死んでもいいや』って投げやりになっていたと思います。でも私、この子たちを迎えるときに約束したんです。『絶対、幸せにするからね』って。『最期まで面倒を見て、お墓に入れてあげて、毎年ちゃんと供養に行く』って誓ったから。だから死ねない。『この子たちのために生きる!』って決めたんです」(鎌田さん)

 

 こうした強い意志も無関係ではなかったはずです。9月までに7コースの抗がん剤治療を行った結果、鎌田さんの体に巣くっていたがん細胞は医師が驚くほど減少し、手術ができる状態になりました。

 そして、9月30日に14時間に及ぶ大手術。出血がひどく難しい手術となりましたが、子宮、卵巣、卵管、腹部リンパ節などを無事、摘出することができました。お姉さんから「実は最初に余命1カ月半と聞かされていた」と打ち明けられたのは、手術が成功した後のことです。

「母と祖母が、悪いものを全部持って行ってくれたんだと思います」(鎌田さん)

 

 その後、抗がん剤治療を3コース行ったほか、定期的な通院は続けていますが、鎌田さんの体調に大きな変化はありません。新たな仕事にも就き、今年6月には結婚も控えています。

「病気にはならないほうがいいし、子供が産めなくなったのは残念です。でも、それまでと違う考え方ができるようになったという意味では、病気になって良かったと思っています。もともとネガティブな性格なんですけど、笑うことやポジティブでいることは免疫力アップにつながると聞いたので、猫たちのためにも前向きに生きて行こうと思っています。この子たちを守れるのは私だけですから」(鎌田さん)

 3匹の猫たちが与えてくれた「生きる力」。鎌田さんは治療開始から間もなく5年を迎えようとしています。

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