高齢のがん患者は、だれが看病するの? がん家族セラピストが出会ったひとたち

酒井 たえこ 酒井 たえこ

よく耳にするのが高齢社会問題ですが、看病の現場でも高齢化の波が襲ってきています。

私のもとに相談に来られる方々のなかにも、高齢の両親ががんを患った例や、高齢夫婦の看病の苦悩を話されることが増えてきており、これからの看病問題で無視できない事柄かも知れません。

いつものように総合病院のボランティアに行った日のことです。70代のおじさんが休憩場所に座っていたので声をかけたところ、奥様がこの病院に入院してもう数か月になっていると教えてくださいました。

おじさんの手は、乾き切った土のようで、まるで生活の変化を表わしているようでした。おじさんの手に、ハンドリフレクソロジー用のオイルを塗布しながら、どうしてこんなに手が乾燥しているのかと尋ねると、奥様の長期入院が決まってから、奥様の寝巻の洗濯や家事を自分がやらないといけなくなって、洗剤などでみるみる手がカサカサになったと、苦笑いしながら話されていました。

おじさんと会話してしばらくたったとき、向こうから手をふりながら、もう一人、70代くらいの男性がやってきました。

その男性はとても気さくな方で、自身の奥様もココに入院をしているから、おじさんと仲良くなったとのこと。奥様のお見舞いで病院に来るとき以外でも、外で会ってお酒を酌み交わすこともあるのだと、屈託のない笑顔で話してくれました。

ハンドリフレクソロジーが終わると、おじさんは手を丹念にさすりながらオイルで肌がしっとりしたことに喜び、自宅でもハンドクリームを塗ると言ってくれました。この日はこれでお別れしました。

別の日、また休憩室におじさんがいたので挨拶をすると、元気がありません。その理由を尋ねると、病院で親しくなったあの男性の奥様が亡くなったのだそうです。しかし、激しい動揺をすることなく、静かに少しずついろんなことを受け入れているようにも思えました。

このおじさんのように、高齢者同士の看病は年々増えていきます。高齢者同士の看病が増えると、お互いに肉体的・精神的にも大きなストレスを抱えてしまい、鬱や虐待行為にむすびつく恐れがあります。このような状況を生み出さないために、高齢者を支える年代の私たちが、人生の後半でがんを患った人の心をどう支えるか、それを社会全体で、真剣に考えるときがきたのではないでしょうか。

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