新型コロナって、犬も感染するの?…患者さんの質問に獣医師として思うこと「どうぞ落ち着いて行動して」

小宮 みぎわ 小宮 みぎわ

このところ、みなさんがコロナウイルスに対して過敏になりすぎている雰囲気があり、とても心配いたしております。先日は、獣医師にとって気になる報道がありました。香港でコロナウイルスにかかった人が飼っている犬の口の中、鼻、肛門の粘膜をぬぐって調べたところ、鼻と口の中のサンプルで弱い陽性反応が出たといいます。

その犬自体には咳や発熱などの症状もないようです。しかし、この報道にはそれ以上の情報がなく、どうやって検査をしたのかなどが分かりませんでした。

コロナウイルスの検査には、検出したいウイルスの遺伝子配列を増幅させて見つける「PCR検査」という方法がよく使われています。しかし、この検査は「そのウイルスの遺伝子が存在していた」ということを証明するだけです。その遺伝子を持つウイルス(この場合はコロナウイルス)が、犬の鼻と口の中で『生きていた』とか『増殖していた』という証拠はありません。

ということは、その犬が飼い主をペロペロ舐めたときに口の中に入ったウイルスの死骸だったかもしれません。何とか何日間は生き残り、感染性を持った状態でいたけれども、やはり犬の体内では増殖できずに、やがて死んてしまったものを検出しているのかもしれないのです。

また、PCR検査の精度も100%ではありません。いくつか理由がありますが、ウイルスのたくさんあるすべての遺伝子配列を調べているのではなく、特徴的な数か所の短い配列のみを調べて判定するため、見落としや間違いが発生してしまうのです。

そんな状況を踏まえて、今回のたった1例の「弱い」陽性報告を鑑みると、分からないことだらけです。この報道だけでは、無用に犬の飼い主やその周囲の人々に不安を煽るだけではないでしょうか。

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このコロナウイルスに関しては、一連の感染の波がおさまった後でないと、実際にはどんなウイルスであったのかは正確には分からないと思います。

致死率に関しても、国民全員にPCR検査をする訳ではないので、正確な数字は出ません。PCR検査を受けていない人々の中には、全く症状のない感染者、少し咳き込みがあったけれどもすぐに良くなった感染者もいるはずです。そして、繰り返しますが、PCR検査の精度も100%ではないのです。

病院の患者のみなさんたちからも単刀直入に「コロナウイルスって犬にもかかるの?」と聞かれることがありますが、現時点では「分かりません」としか申し上げられません。

世界保健機関(WHO)は「犬や猫などのペットがこのウイルスに感染したり広げたりした証拠はない」と説明しています。しかし、コロナウイルスは遺伝子をたくさん持ったウイルスで、遺伝子の配列は刻々と変化していきます。

ただ、犬にかかるとしても、あなたの飼っている犬が新型コロナウイルス感染症になる確率は、あなたよりもかなり低いと思われます。なぜならあなたの犬は、あなたと違って人混みには行かないし、ビジネス街にも行かないからです。

いずれにせよ、ペットは大腸菌やサルモネラ菌などを持っていることがあるので、普段から動物と接触した後は、石けんで手をよく洗うことです。石けんを泡立てて手に刷り込んだ後、「ハッピーバースデー」の歌を2回歌い終わるまで手を洗うと良いといわれています。

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今回のような危機に直面すると、様々な情報が流れてきますが、不確かな情報も多く、それを鵜呑みにすると混乱に拍車がかかります。

マスクの買い占めなどが叫ばれていますが、大学で基礎医学を勉強した獣医師は皆、マスクをしても感染防止という意味では効果がないことは分かっているので、2月初旬に私が参加した獣医師のセミナーでは、誰ひとりマスクを着けていませんでした。一方で、感染者が周囲の方に飛沫感染させないという意味では、マスクはある程度の効果はあると思います。

感染というのは、ミクロの世界で自分の体内の細胞とウイルスとが戦って、体内の細胞が負けてしまうことです。ですから、大切なことは自分の免疫を十分に働かせることと、感染者との濃厚接触は避けて、自分の体内にたくさんのウイルスが入らないようにすることです。栄養のあるものをしっかり食べて、暖かい飲み物を飲んで…身体を冷やさず、睡眠を十分取りましょう。どうぞ落ち着いて行動していただきたいと思います。

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