クリケット転身の元プロ野球選手 目指す舞台は平均年俸4億円超の世界最高峰リーグ

あの人~ネクストステージ

山本 智行 山本 智行

 このままでは終われない。プロ野球広島、西武などで内外野をこなせるユーティリティプレーヤーとして活躍した木村昇吾さん(39)は2017年に引退後、クリケット選手に転向。すでに日本代表の主力を務めるが、目指すは世界最高峰のインディアン・プレミアリーグ(IPL)だ。夢の続きに迫った。

 無謀な挑戦か。プロ野球選手がクリケットに転向したのは世界でも初めてのケース。ましてや最終目標に掲げるIPLはクリケット大国のインド国内8チームで構成され、選手の平均年俸は4億円を超えるとも言われ、世界のプロスポーツの中で3番目という超難関だ。だが、木村さんは一歩も引かない。

 「行ける行けないではない。この競技をやっているからにはIPLが目標です。できると信じてやっています」

 取材したのは1月末、南アフリカ共和国で行われたU19クリケットW杯の視察を終えて帰国した翌日。その言葉は現役時代のプレーそのままに熱かった。

 「FA宣言したときもそうですが、今回も自分が何者なのか知りたかった。アスリートとして心も体も元気だし、まだやれると思ったところに信頼できる記者さんに声を掛けてもらった。人生をドライブにたとえると僕の中では野球選手からクリケット選手に乗り換えただけ。迷いはありませんでした」

 しかし、冷笑されたことは一度や二度ではない。本場を知ろうと初めてインドを訪れた18年夏、ムンバイの地元紙から取材を受け、夢を語るとインタビュアーに失笑されたという。もちろん、本人も道のりが険しいことは分かっている。

 「野球選手としての誇りもありますが、クリケットも本当に奥が深い。何よりいま自分に足りないのは経験です」

 クリケットはイギリスで生まれ、競技人口はサッカーに次いで世界2番目と裾野も広い。野球の原型と言われるが、似て非なるものだ。半径70メートルのフィールドを使って1チーム11人。1回の表裏しかなく、守備はボウラーとウィケット・キーパー以外の9人が全方向に自由なポジションに散らばる。

 バットはオールのような形状で重さは1.3キロほど。156グラムのボールは野球のそれより硬く、革の部分もツルツル。バウンドの変化も激しい。バッツマンは防具を身にまとい、相手守備の状況を見て、これを広角どころか360度に打ち分ける。

 「守備位置や打順を決めるのはキャプテンですが、あとは自分が考えてプレーする。10アウトでチェンジ。相手と駆け引きする中、点を取りながらなるべく長い時間打つのがいい打者なんです。YouTubeもあるので、見ていただければ」

 日本代表では5番目までに打つ「トップ5」入り。素手での捕球となるが、身体能力の高さを生かした守備は世界でも戦えるレベルと自賛する。

 そうなると、いま必要なのはバッツマンとして経験値だ。そのため、ちょうど木村さんが好きな競馬のシャトル種牡馬のようにシーズンに応じて国内と南半球のリーグを往復し、経験を積んでいる。

 2月8日には、広島市の新牛田公園でクリケットの体験教室を開催する。普及にひと役買うと、その後はスリランカのコロンボへ。所属する「シンハラスポーツクラブ」は名門として知られ、現在IPLムンバイのヘッドコーチを務めるスリランカの英雄マリンガがかつて所属していた。チームで認められれば、クリケットでお金を稼ぐという夢につながる可能性もある。

 母・ひとみさんには「何事も覚悟をもってやりなさい」と言われて育った。その一方で妻と中高3人の子どもを支える必要もある。

 「4月で40歳。残された時間はそうそうない」

 惑わずと言ったらウソになるか。IPLへの飽くなき挑戦。自分の心に正直に生きれば、道は後からついてくる。

▼木村昇吾(きむら・しょうご)1980年4月16日生まれ。大阪市出身。尽誠学園から愛知学院大を経て2002年ドラフト11巡目で横浜(現DeNA)に入団。08年から広島、16年から西武。内外野こなす万能野手として通算15年間、733試合に出場。294安打、打率.261、3本塁打、71打点、34盗塁。右投左打。

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