酒を飲んではくだを巻いていたおじいさんが孤独死…「もう一つの顔」とは

元おくりびとコラム

酒井 たえこ 酒井 たえこ

ニュースでよく耳にする孤独死。今までわたしは孤独死を他人事だと思い、自分には関係のないことだと思っていました。しかし、その考えが一変することが起こりました。同じマンションに住むおじいさんが、孤独死の状態で発見され、警察沙汰となる騒ぎが起きたのです。

ある日、わたしの携帯に警察から電話がかかってきました。同じ階に住んでいる男性が孤独死で発見されたので、死亡推定時期の特定のために、みなさんにお話しをうかがっているという内容でした。マンションの住人、特に、私やおじいさんと同じ階の住人たちは、テレビなどでよく耳にしていた「孤独死」が自分のすぐそばで起こったことがショックで、信じられないという思いをしていました。

わたしはおじいさんと、度々エレベーターで顔を合わせることがあり、立ち話をすることもありましたが、2〜3年前からは、お酒を飲んでは出会う人にくだを巻き、ちょっとしたことで怒鳴るようにもなりました。そのため、次第に近所からは嫌われ者になり、避けられるようになっていました。

しかし事件後、おじいさんの意外な一面が判明しました。おじいさんは、近所の人にはくだを巻いていましたが、子どもに対しては気軽に話しかけ、笑うこともあったそうです。マンションの近所に住むおばあさんが「うちの孫がおじいさんになついており、亡くなったと聞いて悲しんでいる」という話も聞きました。近所の大人からは見えていなかった、おじいさんのもう一つの顔。それが見えたような気がしました。

現場検証が終わった次の日、孤独死のお部屋を現状復帰するため、マンションの管理会社が依頼した特殊清掃員が、ガシャンガシャンと手際よく、おじいさんの部屋からビール缶が入ったゴミ袋を外に出す作業を行っていました。

この作業を見て、私はなぜか湯灌を思い出しました。湯灌を受けてくださる故人は、亡くなった直後、家族と一緒にいる場合がほとんどです。しかし、このおじいさんのような孤独死の場合、亡くなる瞬間も、その後も、一人でいるのです。

家族に見送られて逝くのが当たり前だと、誰もが思っています。でも、亡くなるときのことなんて、本当は誰にも分かりません。孤独死したおじいさんも、自分の最期がこのような形になるとは、想像していなかったでしょう。でも、だからこそ、今という時間を大切にしたい。おじいさんの孤独な死を目の当たりにして、つくづくそう思いました。

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