決して“ゆるくない”田舎移住の現実 地元民との心の壁を壊すには…秘境カフェ店主に聞く

北村 守康 北村 守康

 「最果ての地」という表現がこれほど似合う風景には中々お目にかかれない。ここは奈良・和歌山・三重の3県境に位置する、瀞峡(どろきょう)という渓谷の象徴的シーンが見られる辺りで、最近ではSNS映えスポットとして、全国そして海外から「秘境好き」「絶景好き」が遠路はるばるやって来る。この地を訪れたら絶対に立ち寄りたい店がある。「瀞(どろ)ホテル」という名のカフェだ。

 オーナーの東(ひがし)達也さん(38)は、瀞ホテルの長男として生まれ育ち、中学校から通学に便利な母の実家がある隣町の新宮市(和歌山県)に移り、大学から大阪へ出て、就職そして結婚。転機は2011年9月の紀伊半島豪雨だった。現在カフェとして営業している本館の下にあった平屋の別棟が川の増水で流された。

 「大学を卒業して、すぐに父が他界し旅館はしばらく閉館していました。空き家状態だったので建物が朽ちないよう毎月、部屋の風通しをしに帰って来ました。どんどん廃虚化していくのを目の当たりにして、何とかしたいと思っていた時にあの豪雨に襲われました」

 2011年9月の大水害をきっかけに地元へ戻り、瀞ホテル施設の補修、再開の準備に時間を費やし、2013年6月にカフェとして営業を再開。メディア掲載、SNSでの口コミ・拡散、前の川(北山川)を走行する遊覧船とのコラボレーションの効果もあって、この秘境の店に多くの人がわざわざ訪れるようになった。Uターンして新たなビジネスを軌道に乗せた東さんに、田舎移住の留意点を聞いた。

 地方創生の成果なのか、田舎暮らしはある種のステータスシンボルになりつつある。地域おこし協力隊などの制度もあって、田舎へ移住することは若者の一つの選択肢となった。しかし「就職活動がうまく行かない」「職場で評価されない」「今の仕事は面白くない」そんな理由で田舎暮らしを選ぶ若者もいる。都会に比べて田舎は“ゆるい”と考えるのだろう。だが田舎の自然は厳しく、地元民たちとの心の壁を越える必要もあり、決して“ゆるくない”。

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