「私が引き取らないと保健所に行くかも」…殺処分を免れ、運転代行会社の看板犬になった2匹のワンコ

岡部 充代 岡部 充代

 (株)総合代行は岡山市内にある運転代行会社。そのオフィスの中を2匹の犬がフツーに歩いていました。フレンチブルドッグのBUBUちゃんと、フレンチブルドッグとパグのミックスと思われるアンジュちゃんです。看板犬として社員や乗務員の“癒し”になっている2匹は、殺処分されていたかもしれない犬たちでした。

 

 BUBUちゃんは岡山・倉敷市で繁殖犬として飼育されていました。夫婦でブリーディングをしていたようですが、2014年秋、夫が詐欺容疑で“御用”となり、妻と子供は家を出てしまったとか。5頭のフレブルのほか、他の犬種の小型犬も複数、取り残されていたそうです。

 BUBUちゃんたちをレスキューしたのは、フレブルを専門に保護・譲渡活動を行っている「あにまるセカンドライフin岡山」。所有権を持つ人物が拘留中だったため、レスキューには少し時間を要したようですが、無事、すべての犬を救出することができました。

 そのセカンドライフのホームページに目を留めたのが、総合代行の代表取締役、石田昌子さんです。石田さんは愛犬・てんてん丸君(フレブル)を9歳で亡くし、ひどいペットロスに陥っていました。

「ガンだったのですが、最期は安楽死させるしかなくて…。どうやって生きていこうかと思っていたとき、セカンドライフさんのサイトを見たんです。岡山にこういう活動をしている方がいるんだと。保護犬という言葉は知っていましたが、身近に感じたのはこのときが初めてでした」(石田さん)

 

 すぐに連絡し、BUBUちゃんともう1頭、黒いフレブルがまだ里親さんが決まっていないことを知りました。黒い子は推定3歳で健康状態は良好。BUBUちゃんは推定6~7歳で、肛門から大腸が飛び出して出血していたと言います。

「3歳で健康なら他にチャンスがある。でもBUBUは私が引き取らないと保健所に行くことになるんじゃないかと、そう思って、会いに行ったその日に連れて帰りました」(石田さん)。

 そのまま病院へ向かうと、腸が飛び出していたのは良性の腫瘍が原因と分かり、避妊とあわせて手術してもらうことができました。その際、お乳がかなり張っていたのは、まだ授乳期の仔犬と引き離されたせいかもしれません。石田さんは「家を出た奥さんが、売れそうな犬だけ持ち出したのでは」と想像しています。

「あのままだったら、BUBUは妊娠・出産を繰り返さされていたかもしれません。(ブリーダーが)警察に捕まってくれてよかったです」(石田さん)

 

 一方、アンジュちゃんは京都のあるペットショップにいました。ブリーディングもしているショップでしたが、骨形成不全症だったアンジュちゃんは、生後8カ月になっても売れ残っていたそうです。「ミックス犬の“失敗”で処分するしかない」という店員の言葉を聞いた人がセカンドライフに相談、白羽の矢を立てられたのが石田さんでした。

「BUBUを迎えて2年後のことでした。2頭飼うことに不安もありましたが、アンジュも私が引き取らなければ保健所行きかもしれないと思い、京都まで迎えに行ったんです」(石田さん)

 初めてアンジュちゃんを見たとき、石田さんは言葉を失ったと言います。背骨が詰まっているのか体長は明らかに短く、歩き方も不自然。「大丈夫かなと不安になる体つきでした。病院の先生とセカンドライフの方には、いつか歩けなくなるだろうと言われて覚悟していましたが、おかげさまで、今も元気に歩いています」(石田さん)

 右足と左足の長さが違うため排便時に踏張るのが難しい、口蓋裂で水をうまく飲めない、麻酔で半身不随になる可能性があり避妊手術はできない……など大変なこともありますが、それでもBUBUちゃんと寄り添って仲良く暮らしています。

 

「2匹の相性が良かったのが一番の幸せです。BUBUがお母さん代わりになって耳やお尻をなめてあげたり、社会性のないアンジュにいろいろ教えてあげたり。劣悪な環境で繁殖させられても、母性本能は育つんですね。人間よりも強い母性を感じます」(石田さん)

 普段は自宅で飼育していますが、アンジュちゃんの体のこともあり、できるだけ目が届くようにと、出勤時にオフィスに連れて来て、帰るまでずっと一緒です。

「仕事で大変なこともありますが、この子たちが癒しになっています。精神的に支えられていますね」と石田さん。そして、最後にこう付け加えました。

「人間のお金儲けのために作られたのに、見目のいい子たちの陰に隠れて、生きることさえ許されない子たちがいます。犬を飼うときには、保護犬という選択肢もあることを知ってもらえるとうれしいです」

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